実家じまいの手順と費用|片付けから売却・解体まで、親が元気なうちに始める段取り【2026】
帰省するたびに「この家、そのうちどうにかしないと」と思いながら、親にも兄弟にも切り出せずに帰ってくる。実家じまいは、たいていこの「切り出せない」から始まります。
切り出せないまま時間が過ぎると、家はどうなるか。空き家の所有者が家を取得した経緯は、相続によるものが54.6%を占めます(国土交通省 令和元年空き家所有者実態調査)。方針を決めないまま親が亡くなると、片付けと名義変更と売却を、葬儀のあとに同時に抱えることになります。
先に結論を3点にまとめます。
- 親が元気なうちに始めると、決める人が親本人になります。名義人が自分で売れるので、委任状も家庭裁判所の許可も要らず、手続きが軽い
- 手順は5工程で、順番を守れば費用のかかる工程を後ろに回せます。親との合意、家財の仕分け、名義と書類の確認、処分ルートの選択、実行の順
- 現況買取を選ぶと、片付け・仏壇・解体の工程を飛ばせます。実家じまいの費用の大半はこの3工程で発生するので、ここで消える
「解体してから売る」か「片付けてから売る」かを先に決めてしまう前に、飛ばせる工程があることを知っておいてください。
実家じまい 状況別ガイド

💡 この章の要点: 実家じまいは何から始めるかで迷う人と、費用がいくらかかるかで迷う人に分かれます。前者は5工程の章、後者は費用の内訳表から読むと、自分の家に必要な工程だけが見えてきます。
| あなたの状況 | 先に読む章 |
|---|---|
| そもそも実家じまいとは何か、いつ始めるものか知りたい | 実家じまいとは何か |
| 親は元気。何から手を付ければいいか分からない | 5つの工程と順番 |
| 費用がいくらかかるかを知りたい | 費用の内訳表 |
| 家財が多くて、片付けだけで気が遠くなる | 現況買取で飛ばせる工程 |
| 生前に売るか、相続してから売るか迷っている | 税と期限の対照表 |
| 具体的な流れを時系列で見たい | 具体例 |
| 親がすでに施設に入っている | 親が施設に入り実家が空き家に |
| 親がすでに亡くなっている | 空き家相続後の判断フロー |
実家じまいとは何か。生前に始めるか、相続後に始めるかで手続きが変わる
💡 この章の要点: 実家じまいは、親が住まなくなる家を家財の整理から名義、処分まで済ませて手放す一連の作業です。親の生前に始めるか相続後に始めるかで、決める人と必要な手続きが別物になります。この記事は、親が存命で判断能力があるうちに家族で始める場面を主軸にします。
実家じまいという言葉に法律上の定義はありません。この記事では、親が住まなくなる(住まなくなった)家について、家財の整理、名義と書類の確認、売却や解体などの処分までを済ませて手放す一連の作業を指します。「家じまい」も同じ意味で使われます。
背景には、空き家の増え方があります。
- 空き家の数: 2023年10月1日現在で900万戸と過去最多。空き家率は13.8%(総務省 令和5年住宅・土地統計調査)
- 使い道のない空き家: 賃貸用・売却用・別荘などを除いた空き家が385万戸
- 増え方: 空き家数は1993年から2023年の30年間で約2倍
- なり方: 所有者の54.6%は相続で家を取得している
つまり、実家じまいをしないまま親が亡くなると、その家が385万戸の側に加わりかねません。
では、生前に始めるのと相続後に始めるのとで、何が変わるのか。
| 比べる点 | 親の生前に始める | 相続後に始める |
|---|---|---|
| 決める人 | 親本人(名義人) | 相続人全員 |
| 名義 | 親名義のまま売れる | 相続登記を済ませてからでないと売れない |
| 必要な合意 | 親の意思。子は手伝う側 | 遺産分割協議(相続人全員の合意) |
| 家財の判断 | 親が「残す」「手放す」を自分で決められる | 子が推し量って決める |
| 税の特例の入口 | 親の居住用財産の3,000万円控除(No.3302) | 相続した空き家の3,000万円控除(No.3306) |
| 期限の起点 | 親が住まなくなった日 | 相続開始日(相続登記は取得を知った日から3年) |
| 親の判断能力を欠いたとき | 成年後見人が家庭裁判所の許可を得て売る(民法859条の3) | 親の判断能力は関係なくなる |
表の右列は、どの行も親に聞けない状態で決めることになります。左列のうちに始める理由は、この一点に集約されます。
相続後に始める場面(売る、持つ、活用する、放棄する、の4分岐)は空き家相続後の判断フローが担当しています。
実家じまいは何から始めるか。5つの工程と順番
💡 この章の要点: 順番は親との合意、家財の仕分け、名義と書類の確認、処分ルートの選択、実行です。費用がかかるのは家財の仕分けと解体で、どちらも処分ルートが決まってから着手すれば、飛ばせるかどうかを先に判断できます。
片付けから始めて、途中で手が止まった、という話はよく聞きます。片付けは2番目で、しかも全部やる必要があるとは限りません。
[1] 親との合意 誰が決めるか / 名義は誰か / 親の意思
↓
[2] 家財の仕分け 残す・譲る・処分の3分け(仏壇は別扱い)
↓ ※この段階で決めるのは「残す物」だけ
[3] 名義・書類の確認 登記事項証明書 / 相続登記の有無 / 建築年月日
↓
[4] 処分ルートの選択 売る / 貸す / 解体して土地で売る / 現況で買取
↓ └ 現況買取なら [2]の処分と解体が消える
[5] 実行 契約・登記・引き渡し(解体するなら届出)
国土交通省の空き家対策特設サイトも、空き家になる前の準備として「家族で話し合う」「登記を確認する」「家財を整理する」の3つを挙げています(国土交通省)。工程1〜3はこの3つと同じ順番で、工程4で処分ルートの分岐が加わります。
工程1 親との合意。誰が決めるか、名義は誰か
始めるのは片付けではなく、3つの確認です。
- 名義は誰か: 登記上の所有者が決める人になる。父が亡くなって母が住んでいる家が、まだ父名義のままということは珍しくない
- 親の意思はどれか: 「まだ住む」「施設に入ったら好きにしていい」「亡くなったら売ってほしい」のどれかで、始める時期と手順が変わる
- 兄弟の役割: 誰が窓口になるか、費用は誰が立て替えるか、売却代金は名義人のものだと共有しておく
親が「亡くなったら」と言うなら、生前に売る選択肢は無くなります。それでも、名義の確認と「残す物」の仕分けは生前にしかできない作業なので、工程1と2は進めておけます。
親の判断能力が失われると、この工程が成り立ちません。成年後見人が付いても、親が住んでいた家や敷地を売るには家庭裁判所の許可が要ります(民法859条の3)。手続きの中身は認知症の親の家を売る方法に譲ります。
工程2 家財の仕分け。処分ルートが決まる前に全部片付けない
家財は3つに分けます。ただし、この段階で決めるのは1つめだけです。
- 残す物: 親が持っていく物、形見、写真、書類、貴重品。親が自分で選べるのは生前だけ
- 譲る物: 親族や知人に渡す物。運ぶ手配まで決める
- 処分する物: 残り全部。処分ルートが現況買取なら、業者が残置物として引き取る形になる
「残す物」のうち、あとで探すと見つからなくなりやすいのは書類です。親と一緒に居場所を確かめておきます。
- 家に関する書類: 権利証(登記識別情報)、購入時や建築時の契約書、固定資産税の納税通知書、火災保険の証券
- お金に関する書類: 通帳、印鑑、年金の書類、保険証券。施設に入るなら本人が持っていく
- 人に関する物: 位牌、遺影、写真、手紙。仏壇の中身は本体と分けて考える
- 親が持っていきたい物: 施設や転居先に置ける量は限られるので、親に選んでもらう
仏壇だけは別扱いです。閉眼供養と位牌の取り出しは所有者側の仕事で、本体を残置物として渡せるかは買取業者に事前確認が要ります。手順は空き家・実家の仏壇処分にまとめています。
家財が足の踏み場もない量になっているなら、片付けを前提にせずゴミ屋敷状態の家を売る方法から読んでください。
工程3 名義と書類の確認。登記事項証明書を1通取る
家のある土地・建物の登記事項証明書は、法務局で誰でも取れます。見るのは3か所です。
- 名義人と持分: 親1人の名義か、亡くなった祖父母や配偶者の名義が残っていないか
- 建物の新築年月日: 昭和56年5月31日以前かどうかで、相続後の3,000万円控除(No.3306)の入口が分かれる
- 相続登記の有無: 祖父母名義のままなら、売る前に相続登記が要る
相続登記は令和6年4月1日から義務になっています(法務省)。
- 期限: 相続で取得したと知った日から3年以内
- 怠った場合: 正当な理由がなければ10万円以下の過料の対象
- 施行前の相続も対象: 令和9年3月31日までに申請する
祖父母名義のまま止まっている家は、実家じまいの前にこの登記が入ります。手続きは相続登記の義務化と手続きを参照してください。
あわせて、権利証(登記識別情報)、固定資産税の納税通知書、購入時や建築時の契約書を親と一緒に探しておきます。契約書は売却時の税の計算(取得費)に使うので、見つかるかどうかで税額が変わります。
工程4 処分ルートの選択。前に済ませる工程で比べる
ルートは4つです。どれを選ぶかで、工程2の残りと解体の要否が決まります。
| ルート | 前に済ませる工程 | 所有者が先に払う費用 | 向く家 |
|---|---|---|---|
| 仲介で売る | 家財の処分(空の状態で渡すのが原則)。場合により修繕 | 片付け費用。登記費用と印紙代(仲介手数料は代金から) | 立地がよく、個人の買い手がつく家 |
| 貸す | 家財の処分、修繕 | 修繕費 | 戻る可能性を残したい、借り手が見込める立地 |
| 解体して土地で売る | 家財の処分、解体、滅失登記 | 片付け費用、解体費 | 建物に値が付かず、土地に需要がある |
| 現況で買取 | 残す物の取り出しだけ | 登記費用と印紙代程度 | 遠方、家財が多い、築古、早く終えたい |
寄付や国庫帰属を含めた6ルートの比較は空き家の処分方法6つ、貸す場合の判断は親が施設に入り実家が空き家にが担当しています。
工程5 実行。ルートごとにやること
- 仲介: 媒介契約、売り出し、内見の立ち会い、契約、決済。売れるまで固定資産税と管理は続く
- 現況買取: 査定、現地調査(1回)、価格提示、契約、決済。残置物はそのまま
- 解体して売る: 見積もり、契約、届出、工事、滅失登記、そのあと土地の売却
- 共通: 売主は名義人の親。契約と登記の場面で親本人の意思確認があり、代金は親名義の口座に入る
解体には届出があります。床面積80㎡以上の建築物の解体は、発注者(所有者)が工事着手の7日前までに都道府県知事へ届け出ます(国土交通省 建設リサイクル法)。解体業者が代行することが多いものの、義務を負うのは発注者です。
始めるタイミングの目安。合図は3つ
「親が元気なうちに」と言われても、元気な親に切り出す口実がないのが実情でしょう。工程1〜3は売る話と切り離せるので、次のどれかが出た時点で始めるのが目安です。
- 親が施設や転居を口にした: 住まなくなった日から期限が動き出す。工程1の意思確認をそのまま始められる
- 祖父母や亡くなった配偶者の名義が残っていると分かった: 相続登記の期限(施行前の相続なら令和9年3月31日まで)が先に来る。工程3を先に
- 親が「物を減らしたい」と言い出した: 工程2の「残す物」を一緒に選ぶ機会になる。処分の話はしなくてよい
どれも売る話ではありません。売るかどうかは工程4で決めればよく、そこまでの3工程は親の意思と無関係に進みます。
実家じまいの費用。どの工程で、何に、誰が払うか
💡 この章の要点: 費用は工程ごとに発生し、所有者が先払いするのは片付けと解体、それ以外は代金から差し引かれます。片付け・遺品整理の費用相場に公的なデータはありません。書けるのは見積もりの項目と、国民生活センターが挙げるトラブルの型です。
「実家じまいの費用はいくら」という問いに、一つの数字では答えられません。工程ごとに、払う相手と払う時期が違うからです。
| 工程 | 費用の項目 | 誰が、いつ払うか | 金額の一次情報 |
|---|---|---|---|
| 1 親との合意 | 交通費程度 | 家族 | - |
| 2 家財の仕分け | 片付け・遺品整理業者の作業費、処分費 | 所有者が作業の前後に先払い | 公的な相場データなし |
| 2 家財の仕分け | 仏壇の閉眼供養、本体の処分費 | 所有者が先払い | 処分先で変わる(仏壇処分) |
| 3 名義・書類 | 登記事項証明書の手数料。相続登記が要るなら登録免許税と司法書士報酬 | 所有者 | 相続登記 |
| 4→5 解体 | 解体工事費、届出、滅失登記 | 所有者が工事の前後に先払い | 解体費用(木造3〜5万円/坪が目安) |
| 5 売却(仲介) | 印紙代、登記費用、仲介手数料、譲渡所得税 | 代金から差し引き。税は翌年の確定申告 | No.3302 / No.3306 |
| 5 売却(現況買取) | 印紙代、登記費用、譲渡所得税 | 代金から差し引き。片付け費と解体費は業者側の作業 | 同上 |
| 別ルート 国庫帰属 | 審査手数料1筆14,000円、負担金は原則20万円 | 申請時と承認後 | 法務省。建物がある土地は対象外 |
所有者が先払いする行は、片付け、仏壇、解体の3つです。仏壇は処分先で額が決まるので、実家じまいの費用の話は、ほぼ片付けと解体の2行に絞られます。
片付け費用の相場は公的データが無い。見積もりで見る項目
片付けや遺品整理の費用相場を検索すると業者のサイトが並びますが、公的機関がまとめた相場データはありません。金額の目安は、自分の家の見積もりでしか分からないということです。見積もりに出てくる項目を挙げます。
- 作業費: 人数×日数。間取りと物量で決まる
- 処分費: 量(トラック何台分か)と品目(家電、布団、危険物は別料金になりやすい)
- 搬出条件: 階段のみ、道路が狭い、駐車場所がない、といった条件で加算
- 買取相殺: 値の付く物を業者が買い取り、作業費から引く
- 追加作業: 供養、清掃、消臭、リフォームの提案
見積もりの取り方には、国民生活センターが注意を出しています(国民生活センター 2018年7月19日)。
- トラブルの型: 高額な追加料金、キャンセル料、遺品の誤処分、契約内容が十分に説明されない、の4つ
- 対策1: 複数の業者から見積もりを取る
- 対策2: 料金、キャンセル料、作業内容を契約前に明確にする
- 対策3: 保存する遺品と処分する遺品を、作業前に分けておく
3つめは、工程2で「残す物」だけを先に決めておく理由でもあります。残す物が箱にまとまっていれば、誤処分の余地が減ります。
現況買取を選ぶなら、この見積もり自体が要らなくなります。残置物の処分費は買取価格に織り込まれ、所有者が業者と契約する場面がないからです。
解体費と補助金は「解体する」と決めてから調べる
解体費の目安は木造で3〜5万円/坪です。構造や地域、残置物の量で変わる仕組みと、業者の選び方は空き家の解体費用2026に出典付きでまとめています。
補助金は、国の枠組みだけ押さえておけば足ります。
- 仕組み: 国土交通省の空き家対策総合支援事業は、国が市区町村を支援する制度(国土交通省)
- 負担の割合: 所有者が実施する除却は、国2/5、地方2/5、所有者1/5
- 金額と時期: 所有者が受け取れる上限額と申請時期は国の資料になく、自治体ごとに決まる。市区町村のサイトか窓口で確認する
相続土地国庫帰属制度は、建物がある土地を引き取りません(法務省)。実家じまいでこの制度を使うなら解体が前提になり、解体費の上に審査手数料と負担金が乗ります。売れない土地の最終手段であって、先に検討する選択肢ではありません。
現況買取なら、片付け・仏壇・解体の工程を飛ばせる

💡 この章の要点: 買取業者は家財を残置物、建物を古家として引き取り、処分にかかる分を価格から差し引きます。所有者は先払いをせず、売れないリスクも負わない代わりに、価格は仲介より低くなります。飛ばせるのは費用の表の「先払い」の行、残るのは残す物の取り出しと書類です。
実家じまいの解説の多くが解体費の相場を並べるのは、解体してから売る前提に立っているからです。ただ、その前提は「買い手が空の家か更地を求めている」場合に限ります。買取業者は、片付けも解体も自分の作業として引き受けたうえで買います。
費用の表を、2つのルートで並べ直します。
| 工程 | 自分で片付けて解体して売る | 現況買取 |
|---|---|---|
| 家財の仕分け | 残す・譲る・処分の全部 | 残す物の取り出しだけ |
| 片付け業者 | 見積もり、契約、立ち会い | 不要 |
| 仏壇 | 閉眼供養、本体の処分、位牌 | 閉眼供養と位牌の取り出しは所有者。本体を残置物として渡せるかは事前確認 |
| 解体 | 見積もり、届出、工事、滅失登記 | 不要 |
| 費用の払い方 | 工程ごとに先払い | 価格から差し引き |
| 期間 | 片付け+解体+売却活動 | 査定から決済まで |
| 価格 | 更地または空の家の価格 | 残置物と解体の分を引いた価格。仲介より低い |
価格が低くなる理由は、業者が引き受ける作業の費用が引かれるからです。「先払いしてから高く売る」か「引かれた額で先払いなしに売る」かの選択で、どちらが手取りで有利かは、家の立地と物量で変わります。
現地調査で何を見て、何が引かれるか
買取価格は、現地調査を1回受けたあとに提示されます。見られるのは、片付けや掃除の出来ではありません。
- 物量: 残置物の処分にトラック何台分かかるか。仏壇や大型家具の有無
- 建物の状態: 雨漏り、傾き、シロアリの痕。建物を再生して売るか、解体して土地で売るかの判断材料
- 土地の条件: 境界標の有無、前面道路の幅、接道。解体後に土地として売れるか
- 周辺の需要: 再販できる相手がいる立地か
価格は、再販できる想定額から、残置物の処分費、解体費または再生費、諸経費を引いた額として組み立てられます。片付けをしてから査定を受けても、引かれる項目が減るだけで、掃除の出来で価格が上がるわけではありません。
現況買取が向く家、向かない家
- 向く家: 子が遠方で通えない。家財が多い。築古で建物に値が付かない。親の施設費用など、時期の決まった資金需要がある
- 向かない家: 都市部で個人の買い手が見込め、片付けと売却活動の時間を家族で負担できる。この場合は仲介のほうが手取りで上回りやすい
- 迷う家: 両方の査定を取る。買取価格と、仲介の売出価格から片付け費・解体費を引いた額を並べる
買取と仲介の手取りの比べ方は空き家の買取と仲介どちらが得かに詳しく書いています。
現況買取でも所有者に残る作業
飛ばせない工程もあります。
- 残す物の取り出し: 位牌、遺影、写真、書類、貴重品。引き渡し後には戻れない
- 仏壇の区切り: 閉眼供養を頼むかどうかは所有者が決める
- 登記に要る書類: 権利証、印鑑証明書、本人確認書類。相続登記が未了なら先に済ませる
- 親の意思確認: 売主は親本人。契約と登記の場面で意思確認がある
生前に売るか、相続後に売るか。税と期限の対照表
💡 この章の要点: 生前に親が売れば居住用財産の3,000万円控除(No.3302)、相続後に子が売れば相続空き家の3,000万円控除(No.3306)が候補です。上限は同じでも要件は別物で、建物の建築時期と期限の起点が分かれ道になります。
工程3で取った登記事項証明書の新築年月日が、ここで効いてきます。生前に売る場合と相続後に売る場合の控除は、上限の3,000万円こそ同じでも別の制度で、建物の建築時期を問うのは相続後のほうだけだからです。
| 比べる点 | 生前に親が売る(No.3302) | 相続後に子が売る(No.3306) |
|---|---|---|
| 売主 | 親本人 | 相続人 |
| 控除の上限 | 最高3,000万円 | 最高3,000万円。相続人が3人以上なら2,000万円 |
| 期限 | 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで | 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで。かつ令和9年12月31日までの譲渡 |
| 建物の条件 | 建築時期を問わない | 昭和56年5月31日以前の建築。区分所有建物は対象外 |
| 代金の上限 | 記載なし | 1億円以下 |
| 取り壊して売る場合 | 取壊しから1年以内の契約。敷地を貸駐車場などに使わない | 令和6年1月1日以後の譲渡なら、譲渡の翌年2月15日までの耐震改修または取壊しでも可 |
| 相手 | 親子など特別の関係がある人には不可 | 同じ |
出典は国税庁 No.3302とNo.3306(いずれも令和8年4月1日現在法令等)です。
期限の数え方を、同じ日付で並べます。
親が2027年3月に施設へ入所し、住まなくなった場合(No.3302)
3年を経過する日 = 2030年3月
その日の属する年の年末 = 2030年12月31日 ← 生前に売る期限
親が2027年3月に亡くなった場合(No.3306)
3年を経過する日 = 2030年3月
その日の属する年の年末 = 2030年12月31日
ただし適用期限 = 2027年(令和9年)12月31日 ← こちらが先に来る
相続後の控除は、令和9年12月31日という適用期限が先に来るため、いま(2026年秋)相続が起きた家では相続開始から1年余りで売り切る計算になります。生前に売る場合には、この適用期限がありません。
分かれ道は「建物の条件」の行にあります。
- 昭和56年5月31日より後に建った家: 相続後の控除(No.3306)の入口がない。生前に親が売る(No.3302)ほうが、控除を使える可能性が残る
- それ以前に建った家: 生前でも相続後でも控除の候補がある。期限の起点(住まなくなった日か、相続開始日か)で比べる
- どちらも: 確定申告が前提。適用の可否は税務署か税理士に確認する
建築年月日は工程3の登記事項証明書に書いてあります。この1通が、生前に売るか相続後に売るかの判断材料になる理由です。相続後の控除の詳細は空き家の3,000万円特別控除、親が施設に入所した場合の扱いは親が施設に入り実家が空き家にが担当しています。
相続後に始めるなら、相続登記の3年が先に来る
相続後に売る場合、控除の期限より先に相続登記の期限が来ます。
- 相続登記: 取得を知った日から3年以内。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料(法務省)
- 売却の前提: 名義を相続人に移さないと売れない
- 控除の期限: 相続開始から3年目の年末。登記、遺産分割、家財の処分、売却活動をこの間に収める
生前に親が売れば、相続登記も遺産分割協議も、そもそも発生しません。
生前贈与という選択肢もある
親から子へ家を贈与してから子が売る道もあります。相続時精算課税(特別控除2,500万円、令和6年からは年110万円の基礎控除あり。国税庁 No.4103)か暦年課税(基礎控除110万円。No.4408)の選択になり、贈与後に売ると上の表の控除は使えない場合があります。家の評価額と家族構成で結論が変わるので、税理士に相談してから決める領域です。
放置すると固定資産税の軽減が外れることがある
決めないまま置いておく選択にも、費用が付きます。令和5年12月13日施行の改正空家法で、管理が行き届かない「管理不全空家」が指導の対象に加わりました(国土交通省)。
- 住宅用地特例: 住宅の敷地は固定資産税の課税標準が小規模住宅用地で1/6、一般住宅用地で1/3に減額される
- 外れる条件: 管理不全空家か特定空家として指導を受け、従わずに勧告を受けると、この軽減が受けられなくなる
- 実家じまいとの関係: 親が施設に入って誰も通わない家は、この指導の対象になりうる
税額の仕組みは空き家の固定資産税を参照してください。
具体例。母80代が施設入所を検討、実家は築45年の地方、子2人が都内
💡 この章の要点: 母(83歳)が施設入所を考え始めた家族の架空の例です。登記事項証明書の新築年月日で相続後の控除が使えないと分かり、生前に母が売る方針に決めます。家財は「残す物」だけを母が選び、残りは現況買取で残置物ごと渡します。金額は置かず、日付と工程だけを追います。
例を一つ置きます。細部を簡略化した架空の例です。
- 本人: 母83歳。一人暮らしで要支援。「そろそろ施設に入ろうかと思う」と自分から言い出した。判断能力はある
- 実家: 地方都市の郊外、木造、1981年築(築45年)。父から相続して母名義。家財は40年分
- 家族: 長女と長男。どちらも都内在住で、実家まで車で3時間
- 母の考え: 施設に入るなら家は売ってよい。ただし写真と位牌は持っていきたい
| 時期 | 家族がやったこと | 工程 |
|---|---|---|
| 2026年10月 | 帰省時に母と話す。名義が母であることを登記事項証明書で確認。新築年月日は1981年8月で、昭和56年5月31日より後だった | 1、3 |
| 2026年11月 | 相続後の控除(No.3306)は建築時期の要件を満たさない。母が生前に売る(No.3302)方針で一致。買取と仲介の机上査定を取り、値段の感覚を家族で共有 | 4 |
| 2027年1月 | 母が「残す物」を決める。写真、書類、位牌、形見を段ボール数箱に。仏壇は菩提寺に閉眼供養を依頼 | 2 |
| 2027年3月 | 母が施設に入所。住民票を移す。実家は残置物が残ったまま | - |
| 2027年4月 | 買取業者の現地調査(1回)。残置物と解体の分を引いた買取価格の提示。仲介の売出価格から片付け費と解体費を引いた額と比べ、先払いなしの買取を選ぶ | 4 |
| 2027年5月 | 母が売主として契約。司法書士が施設で意思確認。決済。代金は母名義の口座へ | 5 |
| 2028年春 | 母が確定申告でNo.3302の適用を申告(可否は税務署に確認) | - |
この例から拾える判断材料は3つです。
- 分岐点は登記事項証明書の1行でした: 1981年は昭和56年5月31日を境に要件が分かれる年で、新築年月日を見て初めて相続後の控除が使えないと分かった。その時点で、生前に売る理由が明確になった
- 母が片付けたのは「残す物」だけでした: 段ボール数箱を選ぶ作業は母にしかできず、残りは残置物として渡した。片付け業者の見積もりは取っていない
- 決めたのは母でした: 施設の話も、売る話も、母が言い出した。子は登記事項証明書と査定を用意して、母が決める材料をそろえた
この例が成り立たない場面も2つあります。
- 母が2027年の時点で判断能力を失っていた場合: 母は売主になれず、成年後見人の選任と家庭裁判所の許可を経る手順に変わる(認知症の親の家を売る方法)
- 母が「家は残したい」と言った場合: 売る前提が消え、親が施設に入り実家が空き家にの残す・貸す・売るの判断に進む
実家じまいでよくある質問
💡 この章の要点: 費用は工程で決まり、片付けと解体を飛ばせるかどうかで大半が変わります。始めるのは片付けではなく名義の確認からで、しんどさは「親に聞けない状態で決める」ことに集中します。
- 実家じまいの費用はいくらかかりますか?
A. 一つの数字では答えられません。工程ごとに、払う相手と時期が違うからです。
- 先払いする費用: 片付けと解体の2つ。片付けの相場に公的データはなく、解体は木造で3〜5万円/坪が目安
- 代金から引かれる費用: 登記費用、印紙代、仲介手数料(仲介のみ)、譲渡所得税
- 現況買取の場合: 先払いの2項目がどちらも発生しない。内訳は費用の章の表を参照
- 実家じまいは何から始めればいいですか?
A. 片付けではなく、親との合意と登記事項証明書の確認からです。
- 親に聞く: 名義は誰か、いつ手放してよいか、残したい物は何か
- 登記事項証明書を取る: 名義人、相続登記の有無、建物の新築年月日
- その次に: 処分ルートを選び、選んだルートに要る分だけ片付ける
- 実家じまいを親が元気なうちにするメリットは何ですか?
A. 決める人が親本人になることです。
- 手続き: 親名義のまま売れる。委任状も家庭裁判所の許可も、遺産分割協議も要らない
- 家財: 残す物を親が自分で選べる。子が推し量って捨てる場面がなくなる
- 税: 生前に売れば居住用財産の3,000万円控除(No.3302)が候補になり、建物の建築時期を問わない
- 空き家にしない: 相続で取得した空き家が54.6%を占める側に、自分の実家を入れずに済む
- 実家じまいはしんどいと聞きます。何がしんどいのですか?
A. 3つに分かれます。
- 体力: 40年分の家財を遠方から通って片付ける負担。これは現況買取なら大半を飛ばせる
- 手続き: 名義、相続登記、税、契約。生前に始めれば親本人が売主になり、書類が減る
- 気持ち: 親の物を捨てる、生家がなくなる。ここは飛ばせないが、「残す物」を親と一緒に選ぶ工程を先に置くと、捨てる判断を子が一人で背負わずに済む
しんどさの大半は、親に聞けない状態で決めることに集中します。始める時期を早めるほど、この部分が軽くなります。
- 親が「まだ早い」と言います。どう進めればいいですか?
A. 売る話を先送りにしても、工程1〜3は進められます。
- いま進められる作業: 名義の確認、登記事項証明書の取得、残す物の仕分け。売るかどうかと無関係にできる
- 売る話を再開する合図: 親が施設入所や転居を口にしたとき。住まなくなった日から3年目の年末という期限を示して切り出す
- 親が「亡くなったら」と言う場合: 生前に売る選択肢は消えるが、名義と残す物の確認は生前にしかできない作業として続ける
- 遠方に住んでいて、実家に何度も通えません
A. 通う回数を減らす順番があります。
- 通わずにできること: 登記事項証明書は郵送やオンラインで取れる。査定は住所と写真で机上査定が受けられる
- 現地に行く日: 親と残す物を選ぶ日と、買取業者の現地調査の立ち会い。この2回に絞れる
- 仲介との違い: 仲介は内見のたびに立ち会いが要る。通えない家ほど買取が向く
- 兄弟で「売りたい」「残したい」が割れています
A. 決めるのは名義人の親です。兄弟の意見は、親が決めるための材料に変えます。
- 残したい側が出す材料: 管理を誰がやるか、固定資産税と修繕費を誰が払うか
- 売りたい側が出す材料: 査定額と、住まなくなった日から数えた期限
- 生前に決める利点: 相続後の遺産分割協議で、同じ対立を繰り返さずに済む
動くなら早いほうが選択肢が多い
実家じまいには「住まなくなった日から3年目の年末」「相続登記は3年以内」「相続空き家の控除は令和9年12月31日まで」と、期限のある制度が重なります。売ると決める前でも、いま無料査定を取っておくだけで、片付けや解体を先払いするかどうかの判断材料が増えます。
まとめ|実家じまいは、名義の確認から始めて、片付けと解体は最後に決める
💡 この章の要点: 順番は親との合意、家財の仕分け(残す物だけ)、名義と書類、処分ルート、実行。費用の先払いは片付けと解体に集中し、現況買取ならどちらも飛ばせます。生前に売るか相続後に売るかは、登記事項証明書の新築年月日で分かれます。
冒頭の「切り出せない」に戻ります。切り出す中身が「家を売ろう」だから重いのであって、「登記を一緒に確認したい」「残したい物を教えてほしい」なら、帰省のついでに頼めます。この2つが工程1と2の前半で、売るかどうかを決める前に済ませられる作業です。
- 決める人は親。生前なら親名義のまま売れ、委任状も家裁の許可も要らない
- 費用の先払いは片付けと解体だけ。ルートを決める前にどちらも着手しない
- 現況買取は片付け・仏壇の本体・解体を飛ばせる。価格から引かれる代わりに、先払いと売れないリスクがない
- 税の分かれ道は建築年月日。昭和56年5月31日より後の家は、生前に売るほうが控除の候補が残る
- 相続後に始めるなら、相続登記の3年が先に来る
親が元気なうちに決められることを、親が元気なうちに決める。実家じまいの段取りは、この一文に収まります。残る問いは「いつ切り出すか」だけで、それは次の帰省でよいはずです。
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- 弁護士・税理士・司法書士の3士業と連携。親名義のままの売却、相続登記が未了の家、生前と相続後の税の違いも相談できます
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