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相続 - 限定承認とは?実家を残して借金を清算する条件|手続き・費用・税金の落とし穴【2026】
相続

限定承認とは?実家を残して借金を清算する条件|手続き・費用・税金の落とし穴【2026】

父の四十九日が終わり、空き家になった実家の片付けを始めたら、机の引き出しから消費者金融の督促状が2通出てきた。合わせて80万円ほど。ただ、ほかにも借入があるのかどうかは分からない。実家は祖父が建てた家で、できれば手放したくない。

このとき相続人が選べる道は3つあり、そのうちの1つが 限定承認 です。相続によって得た財産の限度でだけ被相続人(亡くなった人)の借金を返す、と留保して相続を承認する方法で(民法922条、2026-09-15確認)、借金が財産を超えていても超えた分は返さなくてよく、財産が残れば受け取れます。

結論は3点です。

  1. 限定承認で実家を残せる経路は1つだけです。 借金を返すために財産を売るときは競売にかけるのが原則で、家庭裁判所が選んだ鑑定人の評価額を相続人が自分の財産から払ったときに限り、競売を止めて家を手元に残せます(民法932条ただし書)。払えなければ競売です。
  2. 限定承認が合う条件は狭い。 借金が財産より明らかに多いなら放棄、借金がないか少ないなら単純承認で足ります。限定承認が効くのは「借金の総額が分からず、財産が残る可能性もある」場合で、しかも相続人全員が3か月以内に足並みを揃えられるときだけです。
  3. 税金の落とし穴が2つあります。 限定承認をすると、亡くなった人が相続の時の時価で実家を売ったものとみなされ(所得税法59条)、値上がり益があれば所得税がかかります。その申告は準確定申告として、相続を知った日の翌日から4か月以内です。

家を残さないのであれば、単純承認して売るほうが手続きは単純です。借金が財産より少ないと見込めるなら、売却代金から返すのが最も工程の少ない道になります。

限定承認 状況別ガイド

限定承認 状況別ガイドのイメージ

いまの状況 読むべき章
3つの選択肢の違いを知りたい 限定承認とは何か
自分の場合に限定承認が合うか判定したい 合う条件と合わない条件
手続きの流れと費用を知りたい 手続きの時系列
実家を残す方法を知りたい 実家を残せる仕組み
遺品整理や修理をしてよいか迷っている 申述前にやってはいけないこと
税金がどうなるか知りたい 税金の落とし穴
兄弟の足並みが揃わない 相続人が複数のとき
残すか売るか決めかねている 単純承認して売る場合との比較

限定承認とは何か。単純承認、相続放棄との違い

💡 この章の要点: 相続人は3か月以内に 単純承認、限定承認、相続放棄 のどれかを選ぶ(民法915条)。単純承認は借金ごと全部、放棄は一切受け継がない、限定承認は 相続で得た財産の限度でだけ借金を返す。家を残せる可能性があるのは単純承認と限定承認だけで、そのうち限定承認だけが家庭裁判所への申述と 相続人全員の共同 を要する。

3つの選択肢を1つの表で

項目 単純承認 限定承認 相続放棄
借金の扱い 全部受け継ぐ(920条「無限に」承継) 相続で得た財産の限度でだけ返す(922条) 一切受け継がない(939条)
財産の扱い 全部受け継ぐ 借金を返して残れば受け取れる 一切受け取れない
誰が 各相続人が個別に 相続人全員が共同で(923条) 各相続人が単独で(938条)
いつまで 3か月以内に何もしなければ自動的にこれ(921条2号) 知った時から3か月以内(915条、924条) 知った時から3か月以内
手続き 不要 家庭裁判所に財産目録を出して申述 家庭裁判所に申述
家を残せるか 残せる(借金も全部負う) 鑑定人の評価額を払えれば残せる(932条ただし書) 残せない
申述後の仕事 なし 公告、債権者への弁済、換価まで相続人側が行う なし

裁判所は限定承認を、「被相続人の債務がどの程度あるか不明であり、財産が残る可能性もある場合等に」使う選択肢と説明しています(裁判所 相続の限定承認の申述、2026-09-15確認)。冒頭の督促状の場面は、この説明にそのまま当てはまります。

「財産の限度で」の意味

  • 借金が財産を超えていた場合: 超えた分は返さなくてよい。相続人自身の給料や貯金には及ばない
  • 財産が借金を超えていた場合: 借金を返した残りは相続人のもの
  • 自分が親に貸していたお金: 単純承認なら貸した人と借りた人が同じ人になって消えるが、限定承認では消えなかったものとみなされる(925条)。他の債権者と同じ立場で弁済を受ける

3つの道の位置関係を、借金と財産の大小で並べるとこうなります。

借金 < 財産 と分かっている   → 単純承認(何もしなくてよい)
借金 ? 財産 (総額が分からない) → 限定承認の出番
借金 > 財産 と分かっている   → 相続放棄

上下の行は別の記事にまとめています。

限定承認が合う条件、合わない条件

💡 この章の要点: 限定承認が効くのは、借金の総額が分からず、財産が残る可能性もあり、実家を残したい 場合。そのうえで 相続人全員が3か月以内に足並みを揃えられ鑑定人の評価額を自分の財産から払える見込み があり、公告と清算の手間を引き受けられること。どれか1つ欠けると、放棄か単純承認のほうが単純に済む。

判定表

状況 向く選択 理由
借金が財産より明らかに多い 相続放棄 限定承認をしても残る財産はなく、公告と清算の手間だけが残る
借金がない、または財産より明らかに少ない 単純承認 3か月何もしなければ確定。家を自由に売れる、貸せる
借金の総額が分からず、財産が残る可能性もある 限定承認の検討対象 裁判所が説明する典型の場面
上記で、実家を残したい 限定承認(932条ただし書を使う前提) 放棄では残せない。単純承認は借金を全部負う
上記で、相続人の1人と連絡が取れない、または反対している 放棄か、期間伸長の申立てで時間を作る 限定承認は全員共同でしかできない(923条)
上記で、鑑定人の評価額を払える見込みがない 限定承認しても家は競売に 残せる条件を満たさない
借金の調査に3か月では足りない 期間伸長の申立て(915条1項ただし書) 伸長は家庭裁判所が判断する。手順は期限カレンダー

限定承認のデメリットは手間、費用、税の3つ

限定承認が第一候補になるのは、表の3行目と4行目だけです。そこに当てはまる読者にも、デメリットを先に知っておいてもらう必要があります。

  • 手間: 官報での公告、知れている債権者への催告、2か月以上の申出期間、債権額に応じた弁済、財産の換価までを相続人側(相続人が複数なら相続人の中から選ばれた清算人)が行う。放棄なら申述で終わり、単純承認なら手続き自体がない
  • 費用: 家庭裁判所に納めるのは収入印紙800円分と連絡用の郵便切手(裁判所)。ほかに官報公告、鑑定人の選任、専門家に依頼する場合の報酬がかかる。手続きの複雑さから、弁護士か司法書士に依頼するのが一般的で、この記事では金額を挙げない
  • : 亡くなった人が相続時の時価で財産を譲渡したものとみなされ、準確定申告が4か月以内に要る。詳細は税金の章

「借金があるかもしれないから、とりあえず限定承認」という選び方は、この3つの代償を全部引き受ける選び方です。借金の見当がつくまで財産調査(915条2項)を進め、3か月で足りなければ伸長を申し立てるほうが、結果として放棄か単純承認で済む場合が多いはずです。

限定承認の手続きと時系列

💡 この章の要点: 知った時から 3か月以内に財産目録を作って家庭裁判所に申述(924条)。その後 5日以内に官報で公告(相続人が複数なら清算人の選任後10日以内)、2か月以上の申出期間 を置き、期間満了後に債権額の割合で弁済する(929条)。財産を売る必要があれば競売、鑑定人の評価額を払えば競売を止められる(932条)。

全体の流れ

[0] 相続の開始を知った日
     │  財産調査(915条2項)。足りなければ期間伸長の申立て
     ▼ 3か月以内
[1] 財産目録を作成し、相続人全員で家庭裁判所に申述(923条、924条)
     │  申述先: 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所
     │  費用: 収入印紙800円分 + 連絡用の郵便切手
     ▼ 受理
[2] 公告と催告(927条)
     │  相続人が1人 → 限定承認後5日以内に官報で公告
     │  相続人が複数 → 家庭裁判所が相続人の中から清算人を選任し、
     │                選任後10日以内に公告(936条)
     │  知れている債権者には個別に催告
     ▼ 申出期間: 2か月以上
[3] 期間満了。申し出た債権者と知れている債権者に、債権額の割合で弁済(929条)
     │  期間中は弁済を拒める(928条)
     ▼ 財産を売る必要があるとき
[4] 競売(932条本文)
     └ ただし、鑑定人の評価額を相続人が払えば競売を止められる(932条ただし書)
        = 実家を残す経路

申述に必要な書類と費用

項目 内容
申述先 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所
費用 収入印紙800円分、連絡用の郵便切手(郵便料は裁判所ごとに異なる)
申述書 裁判所の書式。相続財産の目録を添える(924条)
共通の添付書類 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本、被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人全員の戸籍謄本。被相続人の子で死亡している人がいれば、その出生時から死亡時までの戸籍謄本
第二順位(父母や祖父母)が申述する場合 死亡した直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本を追加
第三順位(兄弟姉妹やその代襲者)が申述する場合 被相続人の父母の出生時から死亡時までの戸籍謄本、直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本、死亡した兄弟姉妹の戸籍謄本などを追加

出典は裁判所の案内(2026-09-15確認)で、同じページに次の注記があります。

  • 先行する事件があれば: 同じ被相続人について期間伸長や放棄の事件が先行していれば、提出済みの書類は不要
  • 戸籍の代わり: 法定相続情報一覧図の写しを出せる場合がある(申述先の家庭裁判所に確認)
  • 入手できない戸籍: 申述後に追加提出してもよい

公告と弁済で相続人が負う責任

  • 公告は官報に掲載する(927条4項)。期間内に申し出ないと弁済から除斥される旨を付記する(2項)。ただし知れている債権者は除斥できず、個別に催告する(2項ただし書、3項)
  • 申出期間中の弁済は拒める(928条)。督促が来ても、期間が終わるまで払わないのが原則
  • 弁済は債権額の割合で行う(929条)。抵当権など優先権のある債権者の権利は害せない。受遺者への弁済は債権者の後(931条)
  • 公告を怠る、期間内に一部の債権者だけに払う と、他の債権者に払えなくなった損害を賠償する責任を負う(934条)
  • 期間内に申し出なかった、限定承認者の知らない債権者 は、残余財産についてだけ権利を行使できる(935条)

この工程を回すのは、相続人自身か、相続人の中から選ばれた清算人です。限定承認の「手間」と呼ばれているのは、申述の書類ではなく、この部分です。

限定承認で実家を残せる仕組み

💡 この章の要点: 借金を返すために財産を売るときは 競売が原則(932条本文)。ただし 家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を相続人が払えば競売を止められる(932条ただし書)。この経路は「先買権」と呼ばれる。払うお金は相続財産ではなく 相続人自身の財産 から出す。払えなければ競売で、家は他人の手に渡る。

932条の本文とただし書

条文は次の2文です(e-Gov、2026-09-15確認)。「前三条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付さなければならない。ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。」

相続財産(実家 + 預貯金など)
   │
   ├─ 借金を返すのに足りる → 家を売らずに済む(換価そのものが不要)
   │
   └─ 足りず、家を売る必要がある
         │
         ├─ 原則: 競売(932条本文)
         │
         └─ 例外: 鑑定人の評価額を相続人が自分の財産から弁済
                  → 競売を止め、家は相続人の手元に残る(932条ただし書)

残せるかどうかを分ける3つの点

  • 評価額は鑑定人が決める: 相続人が「この家は300万円」と決めるのではなく、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従う。評価額と市場価格の関係や鑑定の費用は事案ごとで、この記事では数字を挙げない
  • 払うのは相続人の固有財産: 相続財産から出すのではない。評価額を用意できるかどうかが分かれ目
  • 払った額は債権者への弁済に回る: 家を残しつつ、その価額分の清算も終わる。家を残しても借金が消えるわけではない

単純承認して借金を返すのと何が違うか

評価額を自分の財産から払える人なら、単純承認して借金を返す道も並びます。違いは、払う上限です。

項目 単純承認して返す 限定承認して評価額を払う
相続人が払う上限 借金の全額(920条) 相続財産の限度。家については鑑定人の評価額(922条、932条ただし書)
借金が財産を超えていたとき 超えた分も自分の財産から払う 超えた分は払わなくてよい
借金が財産より少なかったとき 差額は自分のもの 差額は自分のもの。ただし公告と清算の手間と税が付く
家の所有 相続で取得し、そのまま持つ 相続で取得済み。評価額を弁済して競売を止め、手元に残す

つまり、限定承認して家を残す道が単純承認より有利になるのは、借金の総額が相続財産(家の評価額を含む)を超えているかもしれないときです。借金が財産より少ないと見込めるなら、単純承認のほうが工程も税も少なく済みます。

限定承認の前にやってはいけないこと

💡 この章の要点: 申述の前に相続財産を 「処分」すると単純承認したものとみなされ(921条1号)、限定承認も放棄もできなくなる。空き家では 遺品の売却、建物の解体、売買契約、長期の賃貸 が典型。雨漏りの修理や草刈りのような保存行為 と、建物なら3年を超えない賃貸 は除かれる。申述の後でも、財産を隠す、こっそり使う、わざと目録に載せないと同じ扱いになる(921条3号)。

空き家で「処分」に当たりうる行為

民法921条1号は「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」に単純承認をしたものとみなし、ただし書で「保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸」を除いています(2026-09-15確認)。602条の期間は建物なら3年です。空き家に関係する行為をこの文言に照らすと、次のように分かれます。

行為 扱い 条文上の理由
家財や骨董品を売る 処分に当たりうる 相続財産の一部の処分(921条1号)
建物を解体する 処分に当たりうる 建物という財産をなくす行為
売買契約を結ぶ、手付金を受け取る 処分に当たりうる 財産の処分そのもの
3年を超える期間で建物を貸す 処分に当たりうる 602条の期間を超える賃貸は除外されない
預貯金を解約して使う 処分に当たりうる 財産の消費
雨漏りの応急修理、施錠、庭の草刈り 保存行為として除外 921条1号ただし書
3年を超えない期間で建物を貸す 短期賃貸として除外 921条1号ただし書、602条3号
経済的価値のない写真や手紙の形見分け 処分と扱われにくい 財産的価値がないため。迷えば専門家に確認

個々の行為が処分に当たるかは事実関係で判断が分かれます。放棄や限定承認の可能性が少しでも残っているうちは、「価値のあるものには手を付けない」を原則にして、迷う行為は先に弁護士か司法書士に確認してください。

順番を間違えない

空き家の相続では「まず家の中を片付けよう」と動きたくなりますが、順番が逆です。

財産調査(915条2項)。通帳、督促状、契約書、登記を確認
  → 借金の見当をつける
    → 放棄か限定承認を選ぶなら、家財に手を付けず申述へ
    → 単純承認すると決めたら、遺品整理、修理、売却を自由に
  • 遺品整理業者への依頼 は、申述の後、または単純承認すると決めてから
  • 草刈りと施錠 は保存行為として続けてよい。近隣に迷惑をかけない範囲の維持は止めなくてよい
  • 申述後の管理: 限定承認者は自分の財産と同じ注意で相続財産の管理を続ける義務がある(926条1項)。清算が終わるまで家を放置してよいわけではない

申述の後に財産を隠したとき

921条3号は、限定承認や放棄をした後であっても、相続財産を隠匿する、私に消費する、悪意で目録に記載しないときは単純承認をしたものとみなすと定めています。受理されたからもう自由、ではありません。相続人が複数の場合、この事由がある人がいても限定承認そのものは残り、債権者は弁済を受けられなかった債権額について、その人に相続分に応じて請求できます(937条)。

限定承認の税金。みなし譲渡と準確定申告

限定承認の税金。みなし譲渡と準確定申告のイメージ

💡 この章の要点: 限定承認をすると、亡くなった人が相続の時の時価で実家を売ったものとみなされ(所得税法59条1項1号)、値上がり益があれば亡くなった人の所得税がかかる。この申告は 準確定申告 で、相続を知った日の翌日から 4か月以内(所得税法125条、国税庁 No.2022)。相続税の申告(10か月)とは別の期限。誰が負担するか、限定承認の弁済上限に入るか、相続税の債務控除になるかは事案で異なり、税理士に確認する。

みなし譲渡の仕組み

所得税法59条1項は、「相続(限定承認に係るものに限る。)」により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合、「その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす」と定めています。

単純承認や放棄では起きない、限定承認だけの扱いです(e-Gov 所得税法、2026-09-15確認)。

計算の骨組み(数字は仮の例)
  父が30年前に1,000万円で取得した実家
  相続時の時価 1,500万円
  限定承認 → 父が相続の時に1,500万円で譲渡したものとみなす(所法59条1項1号)
  値上がり益 500万円 → 父の譲渡所得として所得税の対象
  申告 → 相続人が準確定申告(所法125条)。知った日の翌日から4か月以内
  • 値上がり益がなければ税額は出ない: 相続時の時価が取得費を下回っていれば、みなし譲渡による所得税はかからない。築古の空き家では建物の値上がり益が出にくい一方、土地は取得時期によって大きく出ることがある
  • 取得費が分からない場合: 相続人が後で売るときと同じ問題が、亡くなった人の側で先に起きる。譲渡所得の計算と取得費の扱いは空き家の譲渡所得税を参照
  • 特別控除が使えるか: みなし譲渡の側で居住用財産の特別控除などが使えるかは事案による。税理士に確認

単純承認と限定承認で税がどう違うか

項目 単純承認 限定承認
相続時の譲渡所得課税 なし。相続人が引き続き所有していたものとみなす(所法60条1項1号) あり。相続時の時価で譲渡したものとみなす(59条1項1号)。値上がり益がなければ税額は出ない
準確定申告 亡くなった人にその年の所得があれば必要 みなし譲渡の所得を含めて必要になりうる
相続人が後で売るときの取得費 親の取得費を引き継ぐ 相続時の価額で取得したものとみなす(60条4項)
相続人が後で売るときの3,000万円控除 要件を満たせば使える 条文上は限定承認を除外していないが、みなし譲渡と取得費の扱いが絡むため事前に税理士に確認。要件は相続空き家の3,000万円特別控除

期限の並び

期限 何を 根拠
知った時から3か月 限定承認の申述 民法915条、924条
知った日の翌日から4か月 準確定申告と納税 所得税法125条、国税庁 No.2022
知った日の翌日から10か月 相続税の申告と納税 国税庁 No.4205
  • 準確定申告の提出先: 被相続人の死亡当時の納税地の税務署長。相続人が2人以上なら連署で出すか、他の相続人の氏名を付記して各人が別々に出す(No.2022、令和8年4月1日現在法令等)
  • 相続税の債務控除: 「被相続人が死亡したときに現に存在した被相続人の債務(借入金や未払金など)で確実と認められるもの」は遺産総額から差し引ける。被相続人に課される所得税で死亡時に確定していないものも債務として差し引ける、と国税庁は書いている(No.4126、2026-09-15確認)
  • この記事で断定しないこと: みなし譲渡による所得税がこの債務控除の対象になるか、限定承認の弁済上限の内側に入る相続債務か、結局誰の負担になるか。いずれも事案で扱いが分かれるため、申述の前に税理士に確認する

限定承認の申述は3か月、準確定申告は4か月。申述してから税の相談を始めると、1か月しか残りません。税理士への相談は申述と同時か、それより前に置くのが現実的です。

相続人が複数いるときの限定承認

💡 この章の要点: 限定承認は 共同相続人の全員が共同してのみ できる(923条)。1人が反対すれば誰もできない。申述後は家庭裁判所が相続人の中から 清算人 を選任し(936条)、公告、弁済、換価を清算人が代表して行う。1人でも財産を処分したり隠したりすると(921条1号、3号)、債権者はその人に相続分に応じて請求できる(937条)。

論点を1つの表で

論点 扱い 条文
1人が反対している 全員でしかできないので、限定承認はできない。反対する人を除いた残りで放棄を検討する 923条
1人が先に放棄した 放棄した人は初めから相続人でなかったものとみなされる(939条)。残った相続人全員で共同すれば923条を満たすと読める。申述前に家庭裁判所か専門家に確認する 923条、939条
1人が3か月を過ぎた その人は単純承認したものとみなされ(921条2号)、全員共同の要件を満たせなくなる。残りの人は個別に放棄はできる 921条2号、923条
誰が手続きを回すか 家庭裁判所が相続人の中から清算人を選任する 936条1項
公告の起算 清算人の選任後10日以内 936条3項
1人が処分や隠匿をした 限定承認は残るが、その人は弁済されなかった債権額について相続分に応じて責任を負う 937条
1人だけが実家を残したい 鑑定人の評価額を払う人が自分の財産から払う。誰が払い、誰の名義にするかは相続人の間で先に決めておく 932条ただし書

足並みが揃わないとき

  • 時間を作る: 相続人の1人でも財産調査が終わらなければ、期間伸長の申立てで3か月を延ばせる場合がある(915条1項ただし書)。申立て自体を3か月以内に行う。手順は期限カレンダー
  • 人数を減らす: 放棄した人は初めから相続人でなかったものとみなされる(939条)。放棄の手続きは空き家の相続放棄
  • 限定承認をあきらめる: 全員が揃わないなら、各自が放棄するか単純承認するかを決める。単純承認した人どうしで家が共有になるときの問題は空き家の共有名義
  • 相続が重なっている: 祖父名義のまま父が亡くなった数次相続では、相続人の数え上げ自体が先に要る。数次相続の手順

家を残さないなら単純承認して売るほうが単純

💡 この章の要点: 実家を残す気がないなら、限定承認の手間と税の代償を引き受ける理由は薄い。借金が財産より少ないと見込めるなら、単純承認して家を売り、代金で借金を返す ほうが工程が少ない。借金が多いなら放棄。限定承認が残るのは、総額が分からず、かつ家を残したい場合に限られる。

3つの道を並べる

項目 限定承認して家を残す 単純承認して家を売る 相続放棄
鑑定人の評価額を払えば残る 売って代金に換える 手放す
借金 相続財産の限度まで(家は評価額まで) 全額を負い、売却代金で返す 負わない
相続人の足並み 全員共同が必須 各自で決められる。売却は共有者全員の同意が要る 各自単独
期限 3か月 3か月何もしなければ確定 3か月
手続きの工程 目録、申述、公告、催告、弁済、鑑定、弁済 相続登記、売却 申述のみ
みなし譲渡と準確定申告(4か月) 売却時の譲渡所得税。3,000万円控除が使える場合あり なし
売却の自由度 清算が終わるまで処分できない 申述の要なし。自由に売れる 該当なし

冒頭の場面に戻ると、督促状が2通で80万円、ほかに借入の形跡がなく、実家に値が付くなら、単純承認して売却代金から返す道が最も工程が少なくなります。逆に、通帳から見覚えのない引き落としが複数あり、総額の見当がつかないなら、限定承認の検討対象です。

単純承認して売る場合の出口

単純承認するかどうかを決める前でも、家の概算金額が分かれば「借金より財産が多いか」の判定材料になります。

  • 査定は処分ではない: 査定を受けるだけなら財産の処分ではなく、相続財産の調査(915条2項)の範囲と考えられる。契約や手付金の受け取りまで進めなければ、限定承認や放棄の道は閉じない
  • 承認を決める前でも相談できる: アキラッキーでは、残置物がそのままの空き家でも、概算金額の相談は無料

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限定承認のよくある質問

1. 限定承認をすれば、実家は残せますか?

残せるのは、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を相続人が自分の財産から払えた場合です(民法932条ただし書)。相続財産の預貯金などで借金を返し切れるなら、そもそも家を売る必要がなく、家はそのまま残ります。足りないときは競売が原則で、評価額を払えなければ家は競売にかかります。

2. 相続人のうち1人だけで限定承認できますか?

できません。限定承認は共同相続人の全員が共同してのみ行えます(923条)。1人でできるのは相続放棄です(938条)。放棄した人は初めから相続人でなかったものとみなされるので(939条)、残った全員で限定承認する道は条文上あると読めますが、申述前に家庭裁判所か専門家に確認してください。

3. 3か月以内に借金の総額が分かりません。どうすればよいですか?

期間伸長の申立てをします。裁判所は、3か月以内に相続財産の状況を調査してもなお判断する資料が得られない場合、申立てにより家庭裁判所が期間を伸ばせると案内しています。申立ては3か月以内に行います。数え方と手順は空き家相続の期限カレンダーを参照してください。

4. 申述の前に、実家の草刈りや雨漏りの修理をしても大丈夫ですか?

保存行為は単純承認とみなされる「処分」から除かれています(921条1号ただし書)。草刈り、施錠、雨漏りの応急修理は維持のための行為です。一方、建物の解体、売買契約、家財の売却、3年を超える賃貸は処分に当たりうるので、申述まで手を付けないでください。

5. 限定承認をすると税金はどうなりますか?

亡くなった人が相続時の時価で財産を売ったものとみなされます(所得税法59条1項1号)。値上がり益があれば亡くなった人の所得税がかかり、相続人が知った日の翌日から4か月以内に準確定申告をします(125条、国税庁 No.2022)。相続税の申告は別に10か月以内です(No.4205)。誰が負担するか、債務控除の対象になるかは事案によるので、申述の前に税理士に確認してください。

6. 限定承認の費用はいくらかかりますか?

家庭裁判所に納めるのは収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です(裁判所。郵便料は裁判所ごとに異なる)。ほかに官報公告、鑑定人の選任、専門家に依頼する場合の報酬がかかります。金額は事案と依頼先で変わるため、この記事では挙げていません。手続きの複雑さから、弁護士か司法書士に依頼するのが一般的です。

7. 限定承認で残した実家を、あとで売ることはできますか?

清算が終わり、評価額を弁済して競売を止めた後は、自由に売れます。売るときの取得費は、相続時の価額で取得したものとみなされます(所得税法60条4項)。単純承認のように親の取得費を引き継ぐのではない点が違います。清算の途中で売ることはできず、換価が必要なら競売が原則です(932条本文)。

この記事が確認した一次情報

この記事の数値と制度は、次の一次情報で2026年9月15日に確認したものだけを書いています。それ以外の数値(官報公告の掲載料、鑑定人の費用、専門家の報酬、申述件数など)は確認できていないため、載せていません。

出典 確認した内容
裁判所 相続の限定承認の申述 概要、申述人(相続人全員が共同)、申述期間(知ったときから3か月以内)、申述先(被相続人の最後の住所地の家庭裁判所)、費用(収入印紙800円分、連絡用の郵便切手)、必要書類、期間伸長の案内
民法(e-Gov) 602条、915条、920条、921条、922条、923条、924条、925条、926条、927条、928条、929条、930条、931条、932条、934条、935条、936条、937条、938条、939条(2026年6月24日施行版)
所得税法(e-Gov) 59条1項1号(限定承認に係る相続はみなし譲渡)、60条1項1号(限定承認以外の相続は引き続き所有)、60条4項(限定承認で取得した資産は取得時の価額で取得)、125条1項(準確定申告の期限)
国税庁 No.2022 準確定申告 知った日の翌日から4か月以内、提出先、相続人が2人以上のときの連署または各人提出(令和8年4月1日現在法令等)
国税庁 No.4205 相続税の申告と納税 知った日の翌日から10か月以内、提出先(令和8年4月1日現在法令等)
国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務 差し引ける債務の定義、死亡時に確定していない所得税の扱い、延滞税や加算税は不可(令和8年4月1日現在法令等)

まとめ 限定承認は「総額が分からず、家を残したい」場合の道

限定承認で確かめる点を、判断の順に並べ直します。

  • 3択の位置: 借金が財産より少ないと分かれば単純承認、多いと分かれば放棄。限定承認は総額が分からない場合の道(922条、裁判所の説明)
  • 合う条件: 財産が残る可能性があり、家を残したく、相続人全員が3か月以内に揃い、鑑定人の評価額を自分の財産から払える見込みがあること
  • 手続き: 財産目録を作って申述(924条)、5日以内(複数なら清算人選任後10日以内)に官報公告(927条、936条)、2か月以上の申出期間、債権額の割合で弁済(929条)
  • 家を残す経路: 競売が原則で、鑑定人の評価額を払えば競売を止められる(932条ただし書)。払えなければ競売
  • 申述前の禁止: 遺品の売却、解体、売買契約、3年を超える賃貸は処分に当たりうる(921条1号)。草刈りや雨漏り修理は保存行為
  • : みなし譲渡(所得税法59条)と準確定申告4か月(125条、No.2022)。相続税は10か月(No.4205)。負担の帰属は税理士に確認
  • 複数相続人: 全員共同(923条)、清算人の選任(936条)、1人の処分は相続分に応じた責任(937条)
  • 残さないなら: 単純承認して売るほうが工程が少ない。借金が多ければ放棄

冒頭の場面に戻ります。督促状が2通で80万円、それ以外の借入の形跡がなく、実家に値が付くなら、限定承認までは要りません。単純承認して売り、代金から返せば終わります。限定承認が要るのは、通帳と郵便物を全部見ても総額の見当がつかず、それでも祖父の建てた家を手元に残したい場合です。その場合は、税理士と弁護士か司法書士への相談を3か月の中に収める必要があります。

先に決めるべきなのは、限定承認をするかどうかではなく、「借金の総額を、3か月でどこまで調べられるか」のほうです。

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