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相続 - 数次相続とは?祖父名義の空き家を売るまでの手順|協議書・登記・放棄【2026】
相続

数次相続とは?祖父名義の空き家を売るまでの手順|協議書・登記・放棄【2026】

父が亡くなり、実家の登記を調べたら、名義がまだ祖父のままだった。祖父が亡くなったのは20年も前で、父の兄弟とは葬式以来ほとんど会っていない。この家を売るには、いったい誰と話をつければよいのか。

相続が済まないうちに、その相続人がまた亡くなって相続が重なる。この状態を 数次相続 と呼びます。この記事は、祖父(または親)名義のまま残った空き家を、数次相続の状態から売れる状態にするまでの手順です。

結論は3点です。

  1. 協議の相手は「祖父の相続人」ではなく、「祖父の相続人の、そのまた相続人」まで広がります。 祖父の出生から死亡までの戸籍と、亡くなった相続人ごとの戸籍をたどって全員を確定させるのが最初の仕事です。人数は放置した年数に比例して増えます。
  2. 相続登記が1件で済むか2件必要かは、間に挟まった相続の形で決まります。 法務局の記載例は「最終の相続以外の相続について、共同相続人数名が権利を取得している場合には、一件の申請では登記することができません」と明記しています。祖父の相続人が父1人だったなら1件、父に兄弟がいれば原則2件です。
  3. 相続放棄と相続税には、数次相続だけの決まりがあります。 放棄の3か月は民法916条で起算点がずれ、相続税には相次相続控除(国税庁 No.4168)と、申告前に亡くなった人の申告義務を引き継ぐ決まり(相続税法27条2項)があります。

手続きの数は多く見えますが、順番は決まっています。戸籍で相続人を確定し、協議書を作り、登記を入れ、売る。買取業者に相談するのは、この順番の2番目が終わる前でかまいません。

数次相続 状況別ガイド

いまの状況 読むべき章
数次相続と代襲相続の違いが分からない 数次相続とは何か
誰が相続人なのか数え上げたい 相続人の確定手順
協議書の署名欄をどう書くか、1通にまとめてよいか 協議書の書き方
登記は1回で済むのか、費用はどうなるか 相続登記を1件で済ませられる条件
祖父の借金があるので放棄したい 再転相続と相続放棄
相続税の申告期限と控除を知りたい 相続税の扱い
とにかく売るまでの順番を知りたい 売るまでの実務順序
相続人が多くて話がまとまらない まとまらないときの選択肢

数次相続とは何か。代襲相続、再転相続との違い

💡 この章の要点: 数次相続は、祖父の相続の手続きが終わらないうちに父が亡くなり、祖父の相続人としての父の立場を父の相続人が引き継いだ状態。祖父より先に父が亡くなっていた場合の 代襲相続 とは、亡くなる順番が逆で、相続人になる人も違う。再転相続 は数次相続のうち、父が祖父の相続を承認も放棄もしないまま亡くなった場合を指す言葉で、相続放棄の期限に関わる。

3つの言葉を1つの表で

祖父が登記名義人、父が祖父の子、自分が父の子、という家族で考えます。

項目 数次相続 代襲相続 再転相続
亡くなる順番 祖父が先、父が後 父が先、祖父が後 祖父が先、父が後(数次相続の一種)
父の立場 祖父の相続人になったあとで死亡 祖父の相続人になる前に死亡 祖父の相続を承認も放棄もしないうちに死亡
祖父の家について協議する人 祖父の他の相続人と、父の相続人(母や自分) 祖父の他の相続人と、父に代わる自分(孫) 数次相続と同じ
母(父の配偶者)は 父の相続人として参加する 参加しない(代襲するのは直系卑属だけ) 父の相続人として参加する
根拠 民法896条、898条 民法887条2項、901条 民法916条

代襲相続で相続人になるのは、亡くなった相続人の子(被相続人の直系卑属)に限られます(民法887条2項、2026-09-14確認)。父より先に祖父が亡くなっていれば、母は祖父の家について何の権利も持ちません。

順番が逆の数次相続では、母が父の相続人として祖父の家の協議に参加します。この違いが、数次相続で人数が増える最初の理由です。

  • 数次相続: 祖父の相続人としての父の地位を、父の相続人(母、自分、弟)が引き継ぐ。母が加わる
  • 代襲相続: 父の代わりに自分と弟が祖父の相続人になる。母は加わらない
  • 再転相続: 数次相続のうち、父が祖父の相続について承認も放棄もしないまま亡くなった場合。放棄の期限の起算点が民法916条で決まる(後述)

数次相続はなぜ起きるか

相続登記に期限がなかった時代には、「名義を変えなくても住み続けられる」空き家が珍しくありませんでした。祖父の家に父が住み続け、固定資産税も父が払っていれば、名義を変える動機は薄いでしょう。

  • 登記の義務化は2024年4月から: 相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請。それより前の相続も対象で、期限は2027年3月31日(法務省 Q&A、2026-09-14確認)
  • 法律上は亡くなった瞬間に共有: 相続人が数人いれば、相続財産はその共有になる(民法898条)。登記が祖父のままでも、権利はすでに父たちに移っている
  • その共有持分がまた相続される: 父が亡くなると、父が持っていた祖父の家の持分は、母と子に分かれる

つまり数次相続は、法律上とっくに起きている相続を、書類の上で追いついていないだけの状態です。追いつくためには、法律上の権利の移り方をそのまま紙に起こす作業が要ります。それが次章の相続人の確定です。

数次相続の相続人を確定する手順

数次相続の相続人を確定する手順のイメージ

💡 この章の要点: 一次相続(祖父)の相続人を戸籍で確定し、そのうち亡くなっている人ごとに二次相続の相続人を確定する。祖父の子が3人で、そのうち父だけ亡くなっていれば署名は 5人(叔父、叔母、母、自分、弟)。叔父も亡くなっていれば 7人以上。戸籍は「出生から死亡まで」を、亡くなった人の数だけ集める。

数え上げの構造

祖父が亡くなった時点で祖母はすでに亡くなっており、祖父の子は父、叔父、叔母の3人、という例で数えます。

[一次相続] 祖父(登記名義人)の死亡
   相続人: 父 1/3、叔父 1/3、叔母 1/3        ← 民法900条4号(子は等分)

[二次相続] 父の死亡(祖父の登記が未了のまま)
   父の持分 1/3 が、父の相続人へ
   相続人: 母 1/2、自分 1/4、弟 1/4         ← 900条1号(配偶者1/2、子1/2)

[祖父の家についての最終的な持分]
   叔父 1/3
   叔母 1/3
   母   1/3 × 1/2 = 1/6
   自分 1/3 × 1/4 = 1/12
   弟   1/3 × 1/4 = 1/12
   → 協議に署名する人: 5人

叔父もすでに亡くなっていれば、叔父の1/3が叔父の妻と子に分かれ、署名は7人になります。祖母が祖父より後に亡くなっていれば、祖母の1/2について祖母の相続(父、叔父、叔母)がもう1段挟まります。

  • 増えるのは「亡くなった相続人」の数だけ: 存命の相続人は1人のまま。亡くなった人1人につき、その配偶者と子の人数分だけ増える
  • 配偶者が毎回加わる: 母、叔父の妻のように、祖父と血のつながりのない人が協議に入る。代襲相続には無い現象
  • 持分は掛け算で細かくなる: 自分の持分は1/12。売却代金の分け方はこの持分が出発点になる

戸籍で確定させる

法務局は、相続登記の登記原因証明情報として「被相続人(死亡した方)の出生から死亡までの経過の記載が分かる戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)、除籍全部事項証明書(除籍謄本)等」と、相続人全員の戸籍を求めています(法務局 記載例(数次相続)注4、2026-09-14確認)。数次相続では、この「出生から死亡まで」を亡くなった人の数だけ集めます。

集める対象 何のために
祖父の出生から死亡までの戸籍 一次相続の相続人(祖父の子全員、認知した子や前妻の子を含む)を確定する
亡くなった一次相続人(父)の出生から死亡までの戸籍 二次相続の相続人(母、自分、弟)を確定する
存命の相続人全員の現在の戸籍 祖父または父の死亡日以後に発行されたもの
祖父の住民票の除票または戸籍の附票 登記上の住所と本籍がつながることを示す(登記名義人と同一人物の証明)
  • 相続関係説明図を作る: 法務局の記載例には、一次と二次の死亡日を書き込んだ相続関係説明図の例が載っている。これを提出すると戸籍の原本を返してもらえる(同記載例 注21)
  • 法定相続情報証明制度を使う: 法務局に戸籍一式を出して法定相続情報一覧図の認証を受けると、その写しか法定相続情報番号で戸籍の添付に代えられる(同記載例 注4)。金融機関にも使い回せる
  • 戸籍の集め方が分からないとき: 記載例は「本籍地又は最寄りの市区町村役場にお問合せください」としている。司法書士に戸籍収集ごと依頼する選択肢は相続登記の義務化にまとめている

祖父の戸籍をたどると、家族が知らなかった相続人が出てくることがあります。認知した子、前婚の子、養子縁組した人です。協議書に1人でも欠けると協議は成立しないので、この段階で全員を洗い出しておくことが、あとの手戻りを防ぎます。

数次相続の遺産分割協議書の書き方

💡 この章の要点: 数次相続の協議書は、誰が「祖父の相続人」で、誰が「父の相続人として参加する人」かを署名欄で示す 点が通常と違う。一次と二次を 1通にまとめる 書き方と 2通に分ける 書き方があり、相続人の顔ぶれと登記の件数で選ぶ。不動産の表示、実印と印鑑証明書、日付といった共通の要件は遺産分割協議書の書き方が担当。

署名欄の肩書

通常の協議書では署名欄は「相続人 氏名」で足ります。数次相続では、同じ「祖父の家」について、立場の違う人が並んで署名するため、実務では肩書で立場を区別する書き方が使われています(法務局の様式に定めがある項目ではなく、実務上の慣行です)。

参加する人の立場 署名欄の肩書の例 例に当てはめると
祖父の相続人として参加する 相続人 叔父、叔母
祖父の相続人ではなく、亡くなった相続人(父)の相続人として参加する 亡甲野一郎相続人 母、自分、弟
祖父の相続人であり、かつ亡くなった別の相続人(祖母)の相続人でもある 相続人兼亡甲野梅子相続人 祖母が祖父より後に亡くなった場合の父、叔父、叔母
(署名欄の例。祖父 甲野太郎の相続について、父 甲野一郎が死亡している場合)

  相続人               住所 ◯◯市◯◯町◯番地
                       氏名 甲野 二郎        実印
  相続人               住所 ◯◯市◯◯町◯番地
                       氏名 乙野 三子        実印
  亡甲野一郎相続人     住所 ◯◯市◯◯町◯番地
                       氏名 甲野 花子        実印
  亡甲野一郎相続人     住所 ◯◯市◯◯町◯番地
                       氏名 甲野 太一        実印
  亡甲野一郎相続人     住所 ◯◯市◯◯町◯番地
                       氏名 甲野 次郎        実印
  • 肩書は立場の説明で、権利の大きさは持分で決まる: 母は「亡甲野一郎相続人」として署名するが、祖父の家について持つのは1/6
  • 被相続人の欄に父も書く: 本文の冒頭で「被相続人 甲野太郎(令和◯年◯月◯日死亡)」に続けて「相続人兼被相続人 甲野一郎(令和◯年◯月◯日死亡)」のように、途中で亡くなった人を明示する書き方が使われる
  • 印鑑証明書は全員分: 相続登記に添付する印鑑証明書に「3か月以内」の制約がないことは、法務局の案内で確認済み(遺産分割協議書の書き方を参照)

1通にまとめるか、2通に分けるか

一次相続(祖父の遺産)と二次相続(父の遺産)は、法律上は別の相続です。協議書を1通にまとめても、祖父の分と父の分で2通に分けても、どちらも作れます。

項目 1通にまとめる 2通に分ける
書き方 被相続人を祖父、「相続人兼被相続人」を父として、祖父の家を誰が取得するかまでを1通に書く 祖父の協議書(祖父の家を父が取得した、と書く)と、父の協議書(父の遺産として家を誰が取得するか)を別々に作る
署名する人 祖父の家に関わる全員(例では5人) 祖父の協議書は5人、父の協議書は母、自分、弟の3人
向く状況 祖父の遺産が家だけで、最終的な取得者が1人に決まっている 父に固有の財産(預貯金、父名義の別の不動産)が多い。叔父や叔母に父の家庭内の分け方を見せたくない
登記との関係 一次と二次の内容が1通で読める 登記が2件になるとき、それぞれの登記原因証明情報として使い分けやすい
注意 一次の協議として「亡くなった父が取得した」と定めることで登記を1件にできるかは、申請前に法務局か司法書士に確認する 祖父の協議書で父の取得を決めるには、父の相続人全員が父の立場で署名する必要がある。1通のときと人数は変わらない

どちらを選んでも、叔父と叔母の署名は避けられません。数次相続の協議で時間がかかるのは、書き方ではなく、疎遠な相続人に連絡を取り、実印を押してもらう段取りのほうです。

条項例

第1条 被相続人 甲野太郎(令和◯年◯月◯日死亡)の遺産のうち、
       下記不動産は、相続人兼被相続人 甲野一郎(令和◯年◯月◯日死亡)が
       相続したものとする。

第2条 前条により甲野一郎が相続した下記不動産は、
       甲野一郎の相続人 甲野太一が単独で相続する。

第3条 甲野太一は、下記不動産を売却し、売却代金から売却に要する
       費用を控除した残額のうち、金◯円を甲野二郎に、金◯円を乙野三子に
       支払う。
       ※ 叔父と叔母に持分相当の金銭を渡す合意を入れる場合の書き方
  • 第1条と第2条で一次と二次を分ける: 誰の相続で誰に移ったかを条ごとに書く。登記の「原因」欄の2行(後述)と対応させやすい
  • 代金の分け方を書く: 叔父と叔母が持分を手放す代わりに金銭を受け取るなら、その額と支払時期を条項にする。書かずに後から送金すると贈与に見える問題は、換価分割と代償分割の章として遺産分割協議書の書き方にある
  • 不動産の表示: 登記事項証明書どおりに、土地と建物を別々に書く。数次相続では祖父名義の物件が他にもないか、名寄帳で確かめてから書く

数次相続の相続登記を1件で済ませられる条件

💡 この章の要点: 法務局の記載例は、数次相続を1件で登記できるのは 中間の相続で権利を取得した人が1人 の場合に限る趣旨で、「最終の相続以外の相続について、共同相続人数名が権利を取得している場合には、一件の申請では登記することができません」と明記している。2件になるとき、祖父から父への 土地 の登記は2027年3月31日まで登録免許税が免税(租税特別措置法84条の2の2第1項)。

法務局の記載例が示す条件

法務局は、数次相続用の登記申請書の様式と記載例を公開しています(不動産登記の申請書様式について、2-1「所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)(数次相続)」、2026-09-14確認)。記載例の冒頭には次の注記があります。

この記載例は、第1の相続が開始し、その相続の登記が未了の間に、その相続人が死亡して第2の相続が開始した場合のものです。なお、最終の相続以外の相続について、共同相続人数名が権利を取得している場合には、一件の申請では登記することができません。

(法務局 記載例(数次相続)、2026-09-14確認)

記載例の事案は、登記名義人の配偶者が先に亡くなり、子1人だけが相続人になったまま、その子も亡くなった、というものです。中間に挟まった相続人が最初から1人だったため、祖父から孫2人へ1件で登記しています。

中間の相続(祖父の相続)の形 申請件数 根拠
祖父の相続人が父1人だった(配偶者も他の子もいない、または先に死亡) 1件で申請できる 法務局 記載例(数次相続)の事案そのもの
祖父の相続人が父、叔父、叔母の3人で、法定相続分のまま 1件では申請できない。祖父から3人への登記と、父から父の相続人への登記の2件 記載例の注記「共同相続人数名が権利を取得している場合には、一件の申請では登記することができません」
祖父の相続人は3人だったが、遺産分割協議で「父が単独で取得した」と定めた 記載例に明記なし。申請前に法務局または司法書士に確認する 記載例は法定で1人の事案のみ

法務局の案内は「遺産の分割の方法や、遺産分割協議書の作成についてのお問合せ・ご相談」には応じないとしています(遺産分割協議編の案内)。3行目の形で1件にできるかどうかは、申請書の書き方の問題として司法書士に確認するのが早道です。

1件で申請するときの「原因」欄

記載例の申請書は、登記の原因を2行で書いています。

登記の目的   所有権移転
原    因   平成2年3月21日法務春夫相続
           令和7年6月20日相続
相 続 人   (被相続人 法務太郎)
           持分2分の1 法務一郎
           持分2分の1 法務温子
  • 1行目: 第1の被相続人(祖父)の死亡日と、中間の相続人(父)の氏名と「相続」(記載例 注1)
  • 2行目: 第2の相続人(父)の死亡日と「相続」
  • 相続人欄: 括弧書きの被相続人は祖父。取得する人と持分は、最終的に取得する人(孫)を書く
  • 添付書類: 祖父と父それぞれの出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍、住民票、相続関係説明図。法定相続情報一覧図の写しで代えられる(注4)
  • 2026年10月5日以降の申請: 登記名義人になる人の国籍等を申し出る新様式になる(法務局の様式ページ。R8.9.11更新版)。申請時期によって様式を取り違えないよう、様式ページで最新版を確かめる

2件になるときの費用

登録免許税は課税価格(固定資産税評価額)の1000分の4です(記載例 注17)。2件申請すると、原則としてこの税が2回かかります。ただし1件目には免税措置があります。

登記 登録免許税 根拠
1件目: 祖父から父(と叔父、叔母)への土地の登記 免税。申請書に「租税特別措置法第84条の2の2第1項により非課税」と記載する。記載がないと免税を受けられない 法務局 免税措置(1)、2026-09-14確認
1件目の建物 課税(免税措置は土地のみ) 同上(「土地の所有権」が対象)
2件目: 父から母、自分、弟への登記 課税(1000分の4) 記載例 注17
不動産の価額が100万円以下の土地 免税。「第84条の2の2第2項により非課税」と記載する 同免税措置(2)

免税措置(1)は「相続により土地を取得した個人が、その相続登記を受ける前に死亡した場合」に、その人を登記名義人とするための登記が対象です。法務局のページは、次の相続人がその土地を相続している必要はない、と補足しています。適用期限は2027年(令和9年)3月31日までの登記です(2026-09-14確認)。

  • 期限は登記の日で判定: 2027年3月31日までに1件目の申請を済ませる必要がある。数次相続の戸籍集めに半年かかることを考えると、逆算して動く
  • 相続登記の申請義務の期限も同じ日: 2024年4月1日より前に開始した相続の申請期限は2027年3月31日(法務省 Q&A)。免税の期限と重なっている
  • 相続人申告登記: 3年の義務だけ先に果たす方法。数次相続での使い方を含め、手続きは相続登記の義務化を参照

再転相続の相続放棄と熟慮期間の起算点

💡 この章の要点: 父が祖父の相続を承認も放棄もしないまま亡くなった場合(再転相続)、祖父の相続を放棄できる3か月は、父の相続人が「自己のために相続の開始があったことを知った時」から数える(民法916条)。この「知った時」の意味を最高裁が令和元年8月9日の判決で示している。一方、父が祖父の死亡を知って3か月を過ぎていれば、父は祖父の相続を単純承認したものとみなされ(921条2号)、その立場ごと引き継ぐ。

放棄できるのは「誰の相続」か

祖父名義の空き家に祖父の借金がついてくる、という場面で、放棄を考える人は多いでしょう。数次相続で放棄を考えるときは、まず「祖父の相続」と「父の相続」のどちらを放棄するのかを分けます。

放棄する相続 何が起きるか できる条件
父の相続 父の財産と債務を一切引き継がない。祖父の家についての父の持分も引き継がない 父の死亡を知った時から3か月以内(915条1項)。家庭裁判所に申述(938条)
祖父の相続(父の立場で) 父が持っていた「祖父の相続人としての地位」を放棄する。父固有の財産は引き継げる 父が祖父の相続を承認も放棄もしていなかった場合に限る(916条)
  • 父がすでに単純承認していれば、祖父の相続だけの放棄はできない: 父が祖父の死亡を知ってから3か月の間に放棄しなかったときは、父は単純承認をしたものとみなされる(921条2号)。承認した立場は父の相続人がそのまま引き継ぐ
  • 20年放置された祖父名義の家は、ほぼこの状態: 父は祖父の相続を承認済み。放棄で外せるのは「父の相続」だけで、それは父の預貯金も家も全部手放すことを意味する
  • 放棄した人は初めから相続人でなかったものとみなす(939条): 協議に参加せず、署名も要らない。人数を減らす手段としては後述

916条の起算点と最高裁の判断

父が祖父の死亡から3か月以内に、承認も放棄もしないまま亡くなった。このときの祖父の相続についての3か月は、民法916条が起算点を定めています。

相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

(民法916条、2026-09-14確認)

この「自己のために相続の開始があったことを知った時」が、父の死亡を知った時なのか、それとも自分が祖父の相続人の地位まで引き継いだと知った時なのか。この点を最高裁判所が判断しています。

項目 内容
裁判 最高裁判所 第二小法廷 判決
裁判年月日 令和元年8月9日
事件番号 平成30年(受)第1626号
判示事項 民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」の意義
出典 最高裁判所 裁判官の関与した主要な裁判、2026-09-14確認

この判決は、父の死亡を知っただけでは祖父の相続の3か月が動き出すわけではなく、祖父の相続人としての地位を自分が引き継いだことを知った時から数える、という趣旨のものとして受け止められています。祖父の存在も、父が祖父の相続人だったことも知らずに何年も過ぎた、という場合の救済に関わります。

  • 判決の本文は裁判所サイトの裁判例検索で確認する: この記事では判示事項までを引用している。自分の事案に当てはまるかは、判決文と事実関係を照らして弁護士か司法書士に判断してもらう
  • 期間の伸長: 3か月では財産の調査が終わらないときは、家庭裁判所に期間の伸長を請求できる(915条1項ただし書)
  • 申述先と費用: 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申述する。収入印紙は申述人1名につき800円(裁判所 相続の放棄の申述、2026-09-14確認)。手続きの流れは相続放棄の手続きを参照

放棄の順番は専門家に確認する

祖父の相続と父の相続の両方を放棄したい、あるいは片方だけ放棄したい、という場面では、どちらを先に申述するかで結果が変わり得るとされています。この記事では判例と通達の原文を確認できていないため、順番の可否については書きません。家庭裁判所に申述する前に、弁護士か司法書士に両方の相続の関係を伝えて確認してください。

  • 相続財産を処分すると単純承認とみなされる(921条1号): 放棄を検討している間に祖父の家を売ったり、残置物を処分したりしない
  • 保存行為は除かれる: 921条1号ただし書。屋根の応急修理のような保存行為は処分に当たらないとされるが、境目は専門家に確認する

数次相続の相続税。相次相続控除と申告期限

数次相続の相続税。相次相続控除と申告期限のイメージ

💡 この章の要点: 相続税の申告期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月」(相続税法27条1項)。申告すべき人が申告前に亡くなると、その人の相続人が、その人の死亡を知った日の翌日から10か月以内 に代わって申告する(27条2項)。父が祖父から相続して相続税を払っていた場合、10年以内なら父の相続で 相次相続控除(国税庁 No.4168)が使える。

申告期限は2段に分かれる

数次相続で相続税の申告が問題になるのは、祖父と父の死亡が短い期間に続いた場合です。

場面 誰が申告するか 期限 根拠
祖父の相続(一次)の申告 相続人(父、叔父、叔母) 祖父の相続の開始を知った日の翌日から10か月以内 相続税法27条1項国税庁 No.4205、2026-09-14確認
父が祖父の相続の申告を出す前に死亡した場合の、父の分の申告 父の相続人(母、自分、弟) 父の相続の開始を知った日の翌日から10か月以内。父の納税地の税務署に出す 相続税法27条2項
父の相続(二次)の申告 母、自分、弟 父の相続の開始を知った日の翌日から10か月以内 相続税法27条1項
  • 叔父と叔母の期限は延びない: 27条2項で期限が延びるのは、亡くなった父の分を引き継ぐ人だけ。叔父と叔母は祖父の死亡から10か月のまま
  • 申告が要るかどうかは基礎控除で決まる: 基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数(国税庁 No.4152、2026-09-14確認)。この人数は、相続を放棄した人がいても放棄がなかったものとして数える
  • 20年前の祖父の相続: 期限はとうに過ぎている。当時申告が必要だったのに未了なら、その扱いは税理士に相談する。父の相続の申告とは別の問題として切り分ける

相次相続控除

祖父の相続で父が相続税を払い、その父が10年以内に亡くなった。この場合、父の相続税から一定額を差し引けます。国税庁のタックスアンサーが要件を3つ挙げています(No.4168 相次相続控除、令和8年4月1日現在法令等、2026-09-14確認)。

要件 内容 例に当てはめると
1 被相続人の相続人であること(相続放棄をした人、相続権を失った人は対象外) 母、自分、弟が父の相続人として取得する
2 その相続の開始前10年以内に開始した相続により、被相続人が財産を取得していること 祖父の死亡から父の死亡まで10年以内
3 その財産について、被相続人に対し相続税が課税されたこと 父が祖父の相続で相続税を納めている

控除額は「前回の相続において課税された相続税額のうち、1年につき10パーセントの割合で逓減した後の金額」を今回の相続税額から控除する仕組みです(同ページ)。相続税法20条は、第一次相続から第二次相続までの年数を10年から引いた年数の、10年に対する割合を乗じると定めています(2026-09-14確認)。

父が祖父の相続で払った相続税を A とすると
  祖父の死亡から父の死亡まで 3年 → A × (10 − 3) ÷ 10 = A の 70% が上限の目安
  同 8年 → A × (10 − 8) ÷ 10 = A の 20%
  10年超 → 控除なし
※ 実際の控除額は、今回と前回の純資産価額の割合でさらに按分される(No.4168 の計算式)
  • 放棄した人は使えない: 要件1。人数を減らすために母が父の相続を放棄すると、母はこの控除の対象外になる
  • 20年放置の数次相続には関係しない: 要件2の10年を超えているため
  • 売却時の税は別: 相続した空き家を売ったときの譲渡所得と3,000万円の特別控除は相続空き家の3,000万円特別控除、期限の一覧は相続の期限一覧を参照

数次相続の空き家を売るまでの実務順序

💡 この章の要点: 順番は 登記事項証明書の確認 → 祖父の戸籍 → 亡くなった相続人ごとの戸籍 → 相続関係説明図 → 協議書 → 相続登記 → 売買契約と決済。買取業者に相談するのは、相続人の顔ぶれと人数の目処が立った時点。登記が終わるのを待ってから査定を頼むと、協議の材料になる金額が無いまま実印集めをすることになる。

7つの段階

[1] 登記事項証明書を取る
      名義人は誰か(祖父か、父か)。物件は何筆・何棟あるか。名寄帳で他の物件も拾う
   ↓
[2] 祖父の出生から死亡までの戸籍を集める
      一次相続の相続人を確定する
   ↓
[3] 亡くなっている一次相続人ごとに、出生から死亡までの戸籍を集める
      二次相続の相続人を確定する
   ↓
[4] 相続関係説明図(または法定相続情報一覧図)を作る
      ★ ここで買取業者に相談する
        人数、住んでいる場所、名義の状態、物件の現況を伝えて概算を取る
   ↓
[5] 遺産分割協議
      概算金額を材料に、誰が取得して売るか、代金をどう分けるかを決める
      協議書を1通または2通作り、全員が実印を押す
   ↓
[6] 相続登記(1件または2件)
      1件目は免税の条項を申請書に記載する
   ↓
[7] 売買契約、決済
      買取なら、登記完了後に契約と決済がまとまって進む

買取業者に相談する時期

数次相続の空き家を仲介で売る場合、買主が見つかるまで相続人全員の協力が続く前提になります。買取業者への売却なら、買主は業者1社で、契約から決済まで相続人側の手続きは一度で済みます。買取の仕組みそのものは空き家の買取とは、仲介との比較は買取と仲介の違いにまとめています。

相談の時期を[4]に置くのは、協議に金額の材料が要るからです。

  • 「売るといくらになるか」が決まると協議が動く: 叔父と叔母に「持分相当で◯円をお渡しする」と具体的に言える。持分1/3を金額に直せない状態では、実印を頼む根拠がない
  • 登記の段取りを業者側が組める: 買取業者は提携の司法書士とともに、数次相続の登記と決済の順番を組むことに慣れている。協議書の文面を登記と決済の両方に通る形で整えられる
  • 相談だけなら相続人全員の同意は要らない: 査定は物件と相続関係の情報があれば取れる。契約の段階で全員(または協議で取得者になった人)の署名が要る

相談時に伝えること

伝える情報 なぜ要るか
登記名義人と死亡日(祖父、父) 登記が1件で済むか2件かの見立てに要る
相続人の人数と住んでいる場所 実印と印鑑証明書を集める段取り。海外在住者がいれば署名証明の手配
協議の進み具合(未着手、話し合い中、合意済み) 決済までの見込み期間
物件の現況(残置物、傷み、接道) 買取価格の概算
祖父の債務の有無 放棄を検討するなら売却より先に判断が要る

相続人が多くて協議がまとまらないときの選択肢

💡 この章の要点: 全員の合意が取れないときの出口は、自分の持分だけを売る一部の相続人が放棄して人数を減らす家庭裁判所に分割を求める の3つ。どれも数次相続に限らない手段なので、要点だけ示し、手順は各記事に委ねる。相続開始から10年を過ぎると、遺産分割で特別受益や寄与分を主張できなくなる(民法904条の3)。

3つの出口

選択肢 何ができるか 制約 詳しくは
持分だけを売る 法定相続分で登記したうえで、自分の持分を買取業者に売る。他の共有者の同意は要らない 建物全体の売却や解体は共有者全員の同意が要る(民法251条1項)。持分の買取価格は全体を売るより低くなりやすい 共有名義の空き家
一部の相続人が放棄する 放棄した人は初めから相続人でなかったものとみなされ(939条)、署名が要らなくなる 放棄は「その相続の全部」が対象。父の相続を放棄すると父の預貯金も引き継げない。3か月の期限 相続放棄の手続き
家庭裁判所に分割を求める 協議が調わないときは遺産分割の調停や審判を請求できる(907条2項)。共有物になった後なら共有物分割の裁判(258条) 時間がかかる。裁判所が定める分割方法は現物分割、持分の取得、競売など 遺産分割協議書の書き方の「まとまらないとき」

10年を過ぎた数次相続

2023年4月以降、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割には、特別受益と寄与分の規定が適用されません(民法904条の3、2026-09-14確認。10年経過前に家庭裁判所に分割を請求した場合などの例外あり)。

  • 意味: 「父は生前に祖父から援助を受けていた」「叔母が祖父の介護をしていた」といった主張で法定相続分を動かすことが、10年を過ぎるとできなくなる
  • 数次相続への効き方: 祖父の相続から20年経った家の協議では、祖父の相続についてはこの主張ができない。持分は法定相続分(例では叔父1/3、叔母1/3、父の相続人で1/3)が基準になる
  • 協議自体はできる: 全員が合意すれば、法定相続分と違う分け方を決めることは10年後でもできる。裁判所に持ち込んだときの基準が固定される、という意味

相続人が10人を超え、所在の分からない人がいる場合は、不在者財産管理人の選任など、家庭裁判所の手続きが先に要ります。その手順は共有名義の空き家の該当節に委ねます。

数次相続のよくある質問

1. 数次相続と代襲相続は何が違いますか?

亡くなる順番が逆で、母(亡くなった相続人の配偶者)が入るかどうかが違います。祖父が先に亡くなり、その後に父が亡くなったのが数次相続で、父の相続人として母も協議に加わります。父が先に亡くなり、その後に祖父が亡くなったのが代襲相続で、父の代わりに相続人になるのは父の子(直系卑属)だけです(民法887条2項)。

2. 祖父の相続だけを放棄して、父の財産は受け取れますか?

父が祖父の相続を承認も放棄もしないまま亡くなった場合に限り、検討の余地があります(民法916条)。父が祖父の死亡を知って3か月を過ぎていれば、父は祖父の相続を単純承認したものとみなされ(921条2号)、その立場ごと引き継ぎます。20年前の祖父の相続を、いま父の相続人が放棄することは、この規定の上ではできません。個別の事情は弁護士か司法書士に確認してください。

3. 相続登記は2回必要ですか? 費用は2倍ですか?

祖父の相続人が父1人だったなら1件、父に兄弟がいれば原則2件です。法務局の記載例は「最終の相続以外の相続について、共同相続人数名が権利を取得している場合には、一件の申請では登記することができません」としています。2件のとき、1件目の土地の登記は2027年3月31日まで登録免許税が免税です(申請書に「租税特別措置法第84条の2の2第1項により非課税」と記載)。建物と2件目は課税(1000分の4)です。

4. 協議書は1通にまとめてよいですか?

どちらでも作れます。祖父の遺産が家だけで最終的な取得者が1人に決まっているなら1通にまとめるのが簡単です。父に固有の財産が多い、または父の家庭内の分け方を叔父や叔母に見せたくないなら、祖父の協議書と父の協議書を分けます。どちらでも、祖父の家について署名する人数は同じです。

5. 名義が祖父のままでも、買取業者に相談できますか?

できます。査定は物件と相続関係の情報があれば取れます。相談の時期は、相続人の人数と顔ぶれの目処が立った時点が目安です。概算金額があると、疎遠な相続人に「持分相当でいくら渡す」と具体的に話せるので、協議が動きます。契約と決済は相続登記の完了後になります。

6. 相続人の1人と連絡が取れません。協議はできますか?

連絡が取れない人を外して協議しても成立しません。所在が分からない相続人がいる場合は、家庭裁判所で不在者財産管理人を選任するなどの手続きが先に要ります。手順は共有名義の空き家の該当節を参照してください。

まとめ 数次相続の空き家は、相続人の確定から売却まで一本の順番で進める

数次相続の空き家で確かめる点を、手続きの順に並べ直します。

  • 相続人の確定: 祖父の出生から死亡までの戸籍と、亡くなった相続人ごとの戸籍を集める。人数は亡くなった相続人1人につき、その配偶者と子の数だけ増える
  • 協議書: 署名欄は「相続人」「亡◯◯相続人」「相続人兼亡◯◯相続人」で立場を示す(実務慣行)。1通にまとめるか2通に分けるかは、父固有の財産の多さと登記の件数で決める
  • 相続登記: 中間の相続で権利を取得した人が1人なら1件、数名なら2件(法務局 記載例の注記)。1件目の土地は2027年3月31日まで免税、申請書に条項の記載が要る
  • 相続放棄: 父が祖父の相続を承認も放棄もしないまま亡くなった場合の起算点は民法916条。最高裁令和元年8月9日判決がその意味を示している。父がすでに単純承認していれば、祖父の相続だけの放棄はできない
  • 相続税: 申告すべき人が申告前に亡くなると、その相続人が死亡を知った日の翌日から10か月以内に代わって申告する(相続税法27条2項)。10年以内の相続には相次相続控除(No.4168)
  • 売却の順番: 戸籍、相続人確定、相関図、(業者相談)、協議、登記、決済。相談は相続人の目処が立った時点で
  • まとまらないとき: 持分だけ売る、一部が放棄する、家庭裁判所に求める。10年を過ぎると特別受益と寄与分は主張できない(904条の3)

冒頭の場面に戻ります。祖父名義の家を売るために話をつける相手は、父の兄弟と、自分の家族です。その全員を戸籍で確定させるところまでが自力の仕事で、そこから先の協議書と登記は、売り先が決まっていれば司法書士と買取業者の側で段取りが組めます。

先に決めておくべきなのは、売る相手ではなく、「誰と何人で話すか」のほうです。

関連: 相続登記の義務化 / 遺産分割協議書の書き方 / 共有名義の空き家 / 相続放棄の手続き / 空き家の買取とは

相続人の人数と名義の状態が分かった段階で、アキラッキーに概算を聞くことができます。祖父名義のまま、相続人が県外や海外に散っている、残置物がそのまま、といった状態でも相談は無料です。数次相続の空き家について無料で相談する