遺産分割協議書の書き方|不動産の記載例・換価分割・登記に通る要件【2026】
親が亡くなり、実家は兄弟で相続することになった。誰も住まないので売って分けるつもりでいたら、法務局でも銀行でも「遺産分割協議書を出してください」と言われた。書式は決まっていないと聞いたが、何を書けば通るのか分からない。この記事は、その状態から法務局と税務署の両方を一度で通す協議書を作るための手順です。
結論は3点です。
- 登記に通る協議書の条件は4つです。 亡くなった人を特定する、相続人全員が合意する、不動産を登記事項証明書どおりに書く、全員が実印を押して印鑑証明書を付ける。法務局の案内には、この印鑑証明書について「作成後3か月以内のものといった制約はありません」と明記されています。
- 売って分けるなら「換価分割」と書きます。 代表者1人の名義で相続登記をしてから売り、代金を分けるやり方でも、その登記が換価のための便宜であり、代金が協議の内容どおりに分配されるなら、贈与税の課税は問題にならないというのが国税庁の質疑応答事例です。ただし、譲渡所得を誰がどの割合で申告するかは別の論点で、売る前に協議書で割合を決めておくかどうかで扱いが変わります。
- ひな形はこの記事にあります。 ただし、法務局は協議書の作り方の相談には応じません(案内に明記)。書式は自由でも、中身で迷う点は司法書士に聞くのが早道です。
「書式は自由」なのに、なぜ差し戻される協議書が絶えないのか。原因のほとんどは、法律の解釈ではなく、写し間違いと書き漏らしにあります。
遺産分割協議書 状況別ガイド

| いまの状況 | 読むべき章 |
|---|---|
| そもそも何のための書類か、遺言があるときはどうか | 協議書とは何か |
| 何を書けば登記に通るのか知りたい | 必須の記載事項 |
| 現物、換価、代償、共有のどれで書くか迷っている | 分割方法4つの比較 |
| 実家を売って代金を分けたい | 換価分割の書き方 |
| 1人が家をもらい、ほかの相続人に現金を払いたい | 代償分割の書き方 |
| すぐ写せる文面がほしい | ひな形 |
| 一度出して差し戻された | 差し戻しの典型 |
| 相続人に未成年、認知症、海外在住の人がいる | 相続人の状況別の注意 |
| 司法書士に頼むといくらか知りたい | 専門家の費用 |
遺産分割協議書とは何か、いつ必要になるか

💡 この章の要点: 人が亡くなった瞬間、実家は相続人全員の 共有(民法898条)になる。協議書は、その共有を「誰のものか」に確定させ、効力を 相続開始の時までさかのぼらせる(909条)書面。相続人が1人なら要らず、遺言で分け方が決まっていれば原則要らない。不動産だけを先に決める一部分割も、条文上できる(907条1項)。
相続財産は「共有」から始まる
相続人が複数いるとき、相続財産は相続人全員の共有になります(民法898条、2026-09-11確認)。各相続人は相続分に応じて権利義務を引き継ぎます(899条)。
- 898条: 相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属する
- 907条1項: 共同相続人は、遺言で禁じられた場合などを除き、いつでも協議で遺産の全部または一部の分割ができる
- 909条: 遺産の分割は相続開始の時にさかのぼって効力を生ずる。ただし第三者の権利を害することはできない
実家の登記名義が父のままでも、法律上は父が亡くなった時点で兄弟の共有になっています。協議書は、この共有状態を「長男が単独で取得する」「売って3人で分ける」という形に確定させる合意の記録です。合意した瞬間からではなく、亡くなった日にさかのぼって効力が生じます。
協議書が要る場面、要らない場面
| 場面 | 協議書 | 備考 |
|---|---|---|
| 遺産分割による相続登記 | 要る | 法務局の必要書類一覧に「遺産分割協議書」と「法定相続人の印鑑証明書」が並ぶ |
| 法定相続分どおりの相続登記 | 要らない | 同じ一覧の「法定相続分の相続の場合」には協議書が無い |
| 遺言書があり、分け方が指定されている | 原則要らない | 被相続人は遺言で分割方法を定められる(908条1項) |
| 相続人が1人 | 要らない | 協議する相手がいない |
| 相続税の申告書への添付 | 分割内容を示す書類として使う | 国税庁の質疑応答事例の照会文にも「相続税の申告書に添付する遺産分割協議書」として登場する |
法務局が公開している必要書類の一覧(相続による所有権の移転の登記の申請に必要な書類とその入手先等、2026-09-11確認)は、分け方ごとに書類を分けて載せています。
- 遺産分割協議の場合: 「遺産分割協議書」と「法定相続人の印鑑証明書」が必要書類に入る
- 法定相続分の場合: 協議書も印鑑証明書も載っていない。戸籍一式と住民票、固定資産課税明細書で申請できる
- 法定相続分で登記した後: 全員の共有名義になり、売るときに全員の同意が要る状態がそのまま残る。共有のまま置いたときに何が起きるかは共有名義の空き家にまとめている
不動産だけを先に決めてよいか
預貯金の残高がまだ確定していないのに、実家だけ先に売却の段取りを進めたい。そういう場面は珍しくないでしょう。
907条1項は「遺産の全部又は一部の分割」と書いており、不動産だけの協議書は条文上作れます。一部分割が他の相続人の利益を害するおそれがあるときは家庭裁判所に分割を請求できない、という制限(907条2項ただし書)は審判の話で、全員が合意した協議には当たりません。
- 不動産だけ先に決める: 協議書に「本協議書は下記不動産についての分割を定めるものとし、その他の遺産については別途協議する」と書く
- 預貯金を当面の費用に充てたい: 分割前でも、相続開始時の預貯金債権の3分の1に自分の法定相続分を掛けた額(金融機関ごとの上限あり)は単独で払い戻せる(909条の2)
- 相続放棄を考えている人がいる: 放棄の期限は相続を知った時から3か月(915条)。放棄した人は初めから相続人でなかったものとされ(国税庁 No.4132、2026-09-11確認)、協議に入りません
相続全体の期限(3か月、10か月)は空き家相続の全体像に、相続登記の期限と過料は相続登記の義務化にまとめています。
登記に通る遺産分割協議書の必須記載事項
💡 この章の要点: 書く項目は 被相続人の特定、相続人全員、分割内容、作成日、全員の住所氏名と実印、不動産の表示 の6つ。不動産は住所ではなく 登記事項証明書の表記どおり(所在、地番、地目、地積、家屋番号、種類、構造、床面積)に写す。印鑑証明書は全員分で、3か月以内という制約はない。
6つの項目
法務局の案内(相続登記申請手続のご案内(遺産分割協議編)、2026-09-11確認)に載っている協議書のイメージを分解すると、項目は次の6つです。
| 項目 | 書くこと | 注意 |
|---|---|---|
| 被相続人の特定 | 死亡日、最後の住所、氏名 | 案内のイメージは「令和◯年◯月◯日、◯◯市◯◯町◯番地 ◯◯の死亡によって開始した相続」の形。本籍を併記する例も多い |
| 相続人全員 | 協議に参加した共同相続人の氏名 | 1人でも欠けると協議として成立しない(907条は「共同相続人」の協議)。戸籍で確定させてから書く |
| 分割の内容 | 誰がどの財産を取得するか | 「下記の不動産は、◯◯が単独で相続する」のように、取得者と財産を1対1で結ぶ |
| 作成日 | 協議が成立した日 | 登記の「原因」に書くのは死亡日で、この日ではない(後述) |
| 相続人の住所、氏名、押印 | 印鑑証明書どおりの住所と氏名、実印 | 案内は「相続人全員が印鑑証明書と同じ印(実印)を押す」 |
| 不動産の表示 | 「記」以下に土地と建物を別々に | 登記事項証明書どおりに(次項) |
案内のイメージには「本協議書を3通作成して、それぞれに署名、押印し、各自1通を保有する」という一文もあります。通数は決まりではありませんが、法務局に出す1通のほかに、金融機関や税務署に出す分と各自の控えを見込んでおくと作り直しが要りません。
不動産の表示は登記事項証明書どおりに書く
差し戻しで最も多いのがここです。法務局の案内は、登記申請書の不動産の表示について「登記事項証明書等に記載されているとおりに正確に記載します」としており、協議書の表示もこれに揃えます。住んでいた住所(住居表示)と登記上の地番は別物で、住所で書いた協議書は物件を特定できません。
不動産の表示(登記事項証明書の見出しをそのまま写す)
土地
所 在 ◯◯市◯◯町一丁目
地 番 23番
地 目 宅地
地 積 123.45平方メートル
建物
所 在 ◯◯市◯◯町一丁目23番地
家屋番号 23番
種 類 居宅
構 造 木造かわらぶき2階建
床 面 積 1階 43.00平方メートル
2階 21.34平方メートル
- 地番と住所は別物: 「◯◯町1-2-3」は住居表示。登記事項証明書の「所在」と「地番」を写す
- 不動産番号: 一筆の土地、一個の建物ごとに付いた13桁の番号。登記申請書ではこれを書けば所在などの記載を省略できる(記載は任意)。協議書には番号と表示の両方を書いておくと照合が楽になる
- 床面積は階ごと: 2階建なら1階と2階を分けて書く。登記事項証明書の数字を小数点以下まで写す
- 敷地権付きマンション: 一棟の建物の表示、専有部分の表示、敷地権の種類と割合まで写す。項目が多いので登記事項証明書のコピーを見ながら書く
- 漏れやすい物件: 私道の持分、家の裏の畑、未登記の物置。固定資産税の課税明細書と登記事項証明書を突き合わせて、被相続人名義の物件を全部拾う
登記事項証明書は、物件の所在地に関係なく全国の法務局で取れます。協議書を書く前に、対象になりそうな物件すべての最新のものを取っておくのが、差し戻しを避ける最短の手順です。
相続人全員の実印と印鑑証明書
相続登記の添付書類として、法務局の案内は次のように定めています(同案内、2026-09-11確認)。
- 押印: 遺産分割協議書には、相続人全員が印鑑証明書と同じ印(実印)を押す
- 添付: その印鑑証明書を各1通添付する
- 有効期限: 「この印鑑証明書については、作成後3か月以内のものといった制約はありません」
- 省略できる人: 登記申請人である相続人を除く相続人の印鑑証明書を添付する(申請人本人の分は不要)
「印鑑証明書は3か月以内」という話をよく聞きますが、法務局の相続登記についてはこの制約が無いと案内に書かれています。ただし、この記述は登記についてのもので、金融機関や証券会社がそれぞれ独自に期限を設けているかどうかは、提出先ごとに確かめる必要があります。
署名欄で補正を求められる原因は、印鑑証明書との不一致に集まります。
- 署名: 自筆で書く。パソコンで氏名を印字して押印だけする例もあるが、争いになったときに本人の意思を示しにくい
- 住所: 印鑑証明書に載っているとおりに書く。番地の表記(「1-2」と「1番2号」)を変えない
- 氏名の漢字: 「斎」と「齋」、「辺」と「邊」のような異体字を印鑑証明書に合わせる。違うと同一人物か照合できない
日付、契印、通数
作成日は、相続人全員が合意した日を書きます。全員が同じ日に集まらず、郵送で順番に押印する場合は、最後の人が押印した日にするのが一般的です。
登記申請書の「原因」に書く日付は、この作成日ではありません。法務局の案内は「相続が開始した日(被相続人が死亡した日)を記載します。遺産分割協議が成立した日ではありませんので、注意してください」としています。909条の遡及効がそのまま申請書の書き方に表れています。
- 契印: 協議書が2枚以上になるときは、各用紙のつづり目に相続人全員が実印で契印するのが通例。法務局の案内が契印を求めているのは登記申請書と原本還付用のコピーについてだが、協議書も同じ扱いで作っておけば差し替えを疑われない
- 訂正: 書き間違いは二重線と訂正印で直せるが、不動産の表示や氏名の訂正は作り直したほうが確実
- 通数: 案内のイメージは3通。提出先の数と各自の控えを見込んで決める
予備的条項で「あとから出てきた財産」に備える
協議書を作ったあとに、名義を忘れていた山林や、解約していない口座が見つかることがあります。そのたびに全員の実印を集め直すのは現実的ではありません。
(後日判明した財産)
第◯条 本協議書に記載のない遺産が後日判明した場合は、
相続人◯◯がこれを取得する。
※「相続人全員が別途協議して定める」とする書き方もある
(債務と費用)
第◯条 被相続人の債務および葬儀費用は、相続人◯◯が負担する。
本協議に要した費用(登記費用、戸籍取得費用等)は、
相続人◯◯が負担する。
- 取得者を決めておく型: 少額の財産が後から出ても手続きが止まらない。ただし高額の財産が出たときに不公平になり得る
- 別途協議とする型: 公平だが、その時点でまた全員の合意が要る
- 債務の負担: 相続人の間で「誰が払うか」を決める条項で、債権者(金融機関など)に対しては法定相続分で責任を負う状態が変わらない点に注意する
分割方法4つの書き方と課税
💡 この章の要点: 分け方は 現物分割、換価分割、代償分割、共有分割 の4つ。空き家の実家では「誰も住まないので売って分ける」換価分割か、「1人が住み、ほかに現金を払う」代償分割に落ち着くことが多い。共有分割は書くのが一番簡単だが、あとで解消するときに 持分の交換として課税 され得る(国税庁 質疑応答事例)。
4つの方法を並べる
| 方法 | 協議書の書き方 | 向く状況 | 税務上の論点(出典) |
|---|---|---|---|
| 現物分割 | 「下記不動産は甲が単独で相続する」 | 物件が複数あり相続人ごとに割り当てられる。1人が実家に住む | 相続税の課税価格は取得した財産の価額そのまま |
| 換価分割 | 「下記不動産を売却し、代金から費用を控除した残額を甲2分の1、乙2分の1の割合で取得する」 | 誰も住まない。金銭で公平に分けたい | 譲渡所得は各相続人が申告。代表者名義での登記は「換価の便宜」なら贈与税の問題なし(質疑応答事例) |
| 代償分割 | 「下記不動産は甲が単独で相続し、甲は乙に代償金◯円を支払う」 | 1人が住み続けたい。その人に支払い資力がある | 課税価格は現物の価額から代償金を引いた額(No.4173)。固有の不動産を代償にすると譲渡 |
| 共有分割 | 「下記不動産は甲2分の1、乙2分の1の持分で共有取得する」 | 決められない。時間切れ | 売却や解体に全員の同意。後日の共有物分割が持分の交換として課税され得る(質疑応答事例) |
4つのうちどれになるかは、物件の数と、住みたい人と払える人がいるかでほぼ決まります。
- 現物分割: 田舎の家と町のマンションを兄と妹で1つずつ、という分け方。空き家が1軒しかなく、それを欲しい人がいなければ選べない
- 代償分割: 長男が実家に住み続け、妹に代わりの現金を払う形。長男に払える資力があるかどうかで決まる
- 換価分割: 誰も住まない実家を売り、代金を分ける形。この記事の読者の多くが最後に選ぶ形で、売却の当事者が誰になるかで書き方が変わる
- 共有分割: 決められないまま期限が来たときの形。書くのは簡単だが、次項の課税の論点がある
共有分割を選ぶ前に
「今は決められないから、とりあえず法定相続分で共有にしておこう」という結論は、協議としては一番書きやすいものです。相続登記の義務化で期限に追われていればなおさらでしょう。
共有にした不動産を、あとで「Aの家は妹、Bの土地は兄」と分け直すと、それは相続ではなく持分の交換になります。
国税庁の質疑応答事例は、相続で共有登記した家と土地を8年後に単独ずつに分けた例について「持分の交換として課税関係が生じます」と答えています(共有物の分割、2026-09-11確認)。交換の特例(所得税法58条)の要件を満たせば別ですが、初めから協議書で分けておけば要らない検討です。
- 売るときは全員の同意: 共有者の1人が反対すると売れない
- 相続が重なる: 共有者が亡くなると、その持分がさらにその相続人に分かれる
- 解消の出口: 持分の売却、共有物分割請求。詳しくは共有名義の空き家
換価分割の書き方(売って分けるとき)
💡 この章の要点: 換価分割には 全員の共有名義で登記して全員で売る 型と、代表者1人の名義で登記して売り、代金を分ける 型がある。代表者名義でも、登記が換価の便宜であり代金が協議どおりに分配されれば 贈与税は問題にならない。一方、譲渡所得は 売る前に取得割合を決めていたかどうか で申告のしかたが変わり、期限後に分けても更正の請求はできない。
2つの型
[型A] 共有名義で登記してから売る
被相続人名義 ──相続登記──▶ 相続人全員の共有 ──売買──▶ 買主
全員が売主として契約書に署名
代金は持分どおりに各自が受け取る
[型B] 代表者名義で登記してから売る
被相続人名義 ──相続登記──▶ 代表者の単独名義 ──売買──▶ 買主
代表者だけが売主
代金を代表者が受け取り、協議書の割合で分配
型Aは仕組みが素直ですが、相続人が遠方や海外にいると契約と決済のたびに全員の署名と印鑑証明書が要ります。型Bは代表者1人で売却を進められる代わりに、「代表者が全部もらって、あとで兄弟にお金を配った」ように見えます。この見え方が、贈与税の論点です。
贈与税は「換価の便宜」であることを協議書に書く
国税庁の質疑応答事例は、この型Bについて直接答えています(遺産の換価分割のための相続登記と贈与税、2026-09-11確認)。
| 事例の前提 | 国税庁の回答 |
|---|---|
| 調停で換価分割になり、換価の都合上、共同相続人のうち1人の名義に相続登記をしたうえで換価し、代金を分配する | 1人名義の相続登記が「単に換価のための便宜のもの」であり、代金が分割に関する調停の内容に従って実際に分配される場合には、贈与税の課税が問題になることはない |
この事例は調停によるものですが、協議で換価分割を決める場合も、同じ2つの条件が協議書で読み取れることが要点になります。
- 換価分割であること: 「売却して代金を分ける目的で取得する」と明記する
- 単独名義が便宜であること: 「換価の便宜のため代表者◯◯の名義で相続登記をする」と明記する
- 分配の割合: 「代金から費用を控除した残額を、甲2分の1、乙2分の1の割合で取得する」と、割合まで書く
- 実際に分配すること: 協議書どおりに振り込み、記録を残す。書面と実態がずれると「便宜」とは言えなくなる
協議書に「代表者が単独で相続する」とだけ書き、分配の約束を口頭で済ませると、書面上は代表者が全部を取得したことになり、その後の送金は贈与に見えます。これを税理士や司法書士が口をそろえて止める理由は、上の事例の裏返しです。
譲渡所得は誰がどの割合で申告するか
贈与税とは別に、売却益には譲渡所得の所得税がかかります。誰がどの割合で申告するかについて、国税庁は次のように整理しています(未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告、2026-09-11確認)。
| 換価した時点の状態 | 申告の割合 | あとで分け方を変えたら |
|---|---|---|
| 売る前に、代金の取得割合を協議で決めていた | その取得割合 | 決めた割合で確定 |
| 取得割合を決めず、特別の事情もない | 法定相続分 | 変えられない |
| 取得割合を決めずに売り、あとで代金を分ける合意をした | 原則は法定相続分。ただし所得税の確定申告期限までに代金が分けられ、全員がその割合で申告すれば認められる | 期限後に分けても更正の請求はできない |
要するに、売る前に協議書で割合を決めておけば、その割合で各自が申告して終わります。決めずに売ると法定相続分が基準になり、あとから「長男が多く取る」と決め直しても、申告のやり直しはできません。
- 代表者名義(型B)でも申告は各自: 代金を取得する相続人それぞれが、自分の取得割合の分を申告する
- 取得費と譲渡費用: 親の購入時の契約書が無く取得費が分からないときは、売った金額の5%相当額を取得費にできる(国税庁 No.3258、2026-09-11確認)。実際の取得費より低くなりがちで税額が増える。仕組みは空き家売却の譲渡所得税
- 3,000万円控除: 相続した空き家の売却に使える特別控除。要件と手続きは相続空き家の3,000万円特別控除
換価分割の条項例
第1条 相続人全員は、下記不動産を売却し、その売却代金から
仲介手数料、登記費用、測量費用、残置物処分費用その他
売却に要する一切の費用を控除した残額を、次の割合で取得する。
相続人 甲野一郎 2分の1
相続人 乙野花子 2分の1
第2条 前条の売却の便宜のため、下記不動産は相続人甲野一郎の
単独名義で相続登記を行う。同人は、売却完了後すみやかに、
前条の割合により売却代金を分配する。
第3条 売却価格、売却先および売却時期は、相続人全員の協議により
定める。
※「相続人甲野一郎に一任する」とする書き方もある
- 費用を先に引く: 仲介手数料や残置物の処分費を誰が立て替えたかで揉めないよう、控除項目を列挙する
- 代表者の手間賃: 代表者が売却の実務を担うなら、実費とは別に定額を先に取る合意を書いておく例もある。書かなければ均等
- 売却の決め方: 「全員の協議」にすると1人の反対で止まる。買取業者への売却なら価格と時期が一度に決まるので、決済が1回で済む
買取と仲介のどちらで売るかは、代金の分配とは別の判断です。手取りと期間の比較は買取と仲介の違いにまとめています。
代償分割の書き方(1人が取得して現金で精算するとき)
💡 この章の要点: 「長男が実家を取得し、妹に代償金を払う」形。相続税の課税価格は、長男は 現物の価額から代償金を引いた額、妹は 代償金の額(国税庁 No.4173)。代償金を 時価を基に決めた ときは計算式が変わる。代償として 自分の持ち家や土地を渡す と、それは時価で売ったことになり所得税がかかる。
条項例
第1条 下記不動産は、相続人甲野一郎が単独で相続する。
第2条 相続人甲野一郎は、前条の相続の代償として、
相続人乙野花子に対し金2,000万円を支払う。
支払期限は令和◯年◯月◯日とし、同人の指定する
預金口座への振込により支払う。振込手数料は
甲野一郎の負担とする。
- 「代償として」と書く: 支払いが遺産分割の一部であることを協議書で示す。協議書に書かずに現金だけ渡すと、分割とは別の贈与と扱われるおそれがある(扱いは税理士に確認)
- 金額、期限、方法: 分割払いにするなら回数と各回の額まで書く
- 不履行への備え: 期限を過ぎたときの遅延損害金や、代償金が払えないときの解除条項を入れる例もある
相続税の課税価格の計算
代償分割の課税価格は、国税庁のタックスアンサーに具体例つきで載っています(No.4173、令和8年4月1日現在法令等、2026-09-11確認)。
前提: 甲が土地を取得(相続税評価額4,000万円、代償分割時の時価5,000万円)
甲は乙に現金2,000万円を支払う
[原則]
甲の課税価格 = 4,000万円 − 2,000万円 = 2,000万円
乙の課税価格 = 2,000万円
[代償金2,000万円を「時価5,000万円」を基に決めた場合]
甲の課税価格 = 4,000万円 − 2,000万円 × (4,000万円 ÷ 5,000万円) = 2,400万円
乙の課税価格 = 2,000万円 × (4,000万円 ÷ 5,000万円) = 1,600万円
| 立場 | 課税価格 | 意味 |
|---|---|---|
| 代償金を払った人(甲) | 取得した現物の価額 − 交付した代償財産の価額 | 実家をもらった分から、払った分を引く |
| 代償金を受け取った人(乙) | 取得した現物の価額 + 受け取った代償財産の価額 | 現物が無ければ代償金だけ |
時価を基に代償金を決めたときの調整式は、相続税評価額と時価の差が大きい都市部の土地ほど効いてきます。どちらの式で申告するかは、協議書に「時価◯円を基に代償金を定めた」と書いてあるかどうかにも左右されるので、税理士に協議書の文面を見せて決めるのが安全です。
代償として不動産を渡すときの落とし穴
「長男が実家を取得し、代わりに自分が持っている別の土地を妹に渡す」という形も代償分割です。ただし国税庁は、代償財産が相続人固有の不動産である場合、それは代償債務を履行するための資産の移転であり、履行した人は「その履行の時における時価によりその資産を譲渡したことになり、所得税が課税されます」としています(同 No.4173)。
- 渡した人(長男): 自分の土地を時価で売ったのと同じ扱いで譲渡所得が生じる
- 受け取った人(妹): 履行時の時価でその土地を取得したことになる
- 回避策: 代償は現金で払うか、その土地も遺産に含まれるなら現物分割として割り当てる
遺産分割協議書のひな形
💡 この章の要点: 法務局の案内にあるイメージ(単独取得)を基に、被相続人の特定、相続人全員、取得者、通数、作成日、住所氏名実印、不動産の表示 を1本にした。換価分割と代償分割にするときは、第1条と第2条を前章の条項例に差し替える。氏名と住所は 印鑑証明書どおり、不動産は 登記事項証明書どおり に写す。
遺 産 分 割 協 議 書
令和7年6月20日、◯◯市◯◯町◯番地 甲野太郎(本籍 ◯◯県◯◯市◯◯町◯番地)の
死亡によって開始した相続の共同相続人である甲野梅子、甲野一郎および乙野花子は、
本日、その相続財産について、次のとおり遺産分割の協議を行った。
第1条 相続財産のうち、下記の不動産は、甲野一郎が単独で相続する。
第2条 本協議書に記載のない遺産が後日判明した場合は、相続人全員が
別途協議して定める。
第3条 本協議に要した費用は、甲野一郎が負担する。
この協議を証するため、本協議書を3通作成して、それぞれに署名、押印し、
各自1通を保有するものとする。
令和7年7月1日
住所 ◯◯市◯◯町二丁目12番地
氏名 甲野 梅子 実印
住所 ◯◯郡◯◯町◯◯34番地
氏名 甲野 一郎 実印
住所 ◯◯市◯◯町三丁目45番6号
氏名 乙野 花子 実印
記
不動産
土地
所 在 ◯◯市◯◯町一丁目
地 番 23番
地 目 宅地
地 積 123.45平方メートル
建物
所 在 ◯◯市◯◯町一丁目23番地
家屋番号 23番
種 類 居宅
構 造 木造かわらぶき2階建
床 面 積 1階 43.00平方メートル
2階 21.34平方メートル
以上
- 換価分割にする: 第1条を「相続人全員は、下記不動産を売却し…」に、第2条を「売却の便宜のため甲野一郎の単独名義で相続登記を行う…」に差し替える(条項例は換価分割の章)
- 代償分割にする: 第1条はそのまま、第2条に「甲野一郎は、前条の相続の代償として、乙野花子に対し金◯円を支払う」を入れる(条項例は代償分割の章)
- 共有にする: 「甲野一郎が持分2分の1、乙野花子が持分2分の1の割合で共有取得する」と書く。ただし前章の課税の論点を読んでから
- 用紙と筆記: 法務局は登記申請書についてA4、パソコン入力または黒インク(消せるものは不可)、鉛筆不可としている。協議書も同じ基準で作れば、添付書類として見劣りしない
- 氏名と住所: 印鑑証明書の表記を写す。旧字体や番地の書式を変えない
法務局のイメージには「これは、記載例です。この記載例を参考に、協議の結果に応じて作成してください」と添えられています。上のひな形も同じで、条項の番号や順番に決まりはありません。
法務局で差し戻される遺産分割協議書の典型
💡 この章の要点: 差し戻しの原因は 不動産の表示、相続人の漏れ、印鑑、日付、被相続人の特定 の5つに集まる。法務局は申請書と添付書類の不備は指摘するが、協議書の作り方そのものの相談には応じない(案内に明記)。中身の相談先は司法書士。
不備の一覧
| 不備 | 何が起きるか | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 不動産を住所で書いた、地積や床面積の数字が違う | 物件を特定できず補正 | 登記事項証明書を取り、見出しごと写す |
| 私道持分や物置を書き忘れた | その物件だけ被相続人名義のまま残る。売却時に発覚 | 固定資産税の課税明細と名寄帳で被相続人名義を全部拾う |
| 相続人が1人欠けていた(前妻の子、認知した子など) | 協議が成立していない扱い。作り直し | 被相続人の出生から死亡までの戸籍を全部集めて相続人を確定する |
| 認印で押した、印鑑証明書と印影が違う | 添付書類の要件を満たさない | 全員が実印を押し、印影を印鑑証明書と見比べる |
| 住所や氏名の表記が印鑑証明書と違う | 同一人物か照合できない | 印鑑証明書のとおりに書く |
| 作成日が死亡日より前、印鑑証明書の日付より後に押印したように見える | 日付の整合を疑われる | 作成日は全員の押印が揃った日にする |
| 被相続人の登記上の住所と死亡時の住所が違う | 登記名義人と被相続人が同一人物と分からない | 住民票の除票または戸籍の附票で住所のつながりを示す(法務局の必要書類一覧) |
| 複数枚なのに契印が無い | 差し替えを疑われる | 全員の実印で各つづり目に契印 |
| 調停調書に対象不動産が漏れている | その調書では登記できない(法務局の案内) | 調停の申立て前に物件一覧を確定する |
法務局が公開しているチェックリストは、登記申請書の押印、連絡先の電話番号、契印、収入印紙の貼付といった申請書側の項目を並べています。協議書の中身は登記官が実質判断する部分で、事前相談の対象にはなりません。案内にも「法務局(登記所)では、遺産の分割の方法や、遺産分割協議書の作成についてのお問合せ・ご相談にお応えすることができません」と明記されています。
登記申請書に書くこと(協議書との違い)
協議書が通っても、登記申請書の側で止まることがあります。案内の記載例から、協議書と混同しやすい点だけ拾います。
- 登記の目的: 「所有権移転」
- 原因: 「令和◯年◯月◯日相続」。日付は死亡日で、協議成立日ではない
- 相続人: 被相続人の氏名を括弧書きし、取得する相続人の住所氏名を住民票どおりに。押印は認印で可
- 添付情報: 登記原因証明情報(戸籍一式と協議書)、住所証明情報(住民票)
- 課税価格と登録免許税: 固定資産税評価額に1,000分の4。100万円以下の土地など免税になる相続登記もある(租税特別措置法84条の2の2)
- マイナンバー: 記載のある住民票は添付しない
期限、過料、相続人申告登記、数次相続の扱いは相続登記の義務化にまとめています。
未成年、認知症、海外居住、行方不明の相続人がいるとき
💡 この章の要点: 相続人に 未成年 がいて親も相続人なら、親は子の代理ができず 特別代理人 の選任が要る(民法826条)。認知症 で判断能力が無い人がいれば成年後見人、海外在住 なら印鑑証明書の代わりの書類、行方不明 なら不在者財産管理人と、いずれも協議の前に家庭裁判所や在外公館の手続きが入る。
未成年の相続人がいる
未成年者が法律行為をするには法定代理人の同意が要ります(民法5条、2026-09-11確認)。遺産分割協議もこの法律行為です。問題は、父が亡くなって母と未成年の子が相続人になる、という一番ありふれた場面で、母が子の代理をできないことです。
親権者と子の利益が相反する行為については、親権者は子のために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(826条1項)。母が自分の取り分を決める協議で子の代理も務めると、子の取り分を削って自分が取れる立場になるからです。
| 状況 | 誰が子を代理するか | 根拠 |
|---|---|---|
| 親権者も共同相続人(母と子が相続人) | 家庭裁判所が選任した特別代理人 | 826条1項。国税庁の質疑応答事例も「特別代理人の選任を要します」 |
| 親権者は共同相続人でない(子だけが相続人) | 親権者の同意で足りる | 質疑応答事例(注) |
| 同じ親権者の下に未成年の子が2人以上 | 1人を除き、それぞれ特別代理人 | 826条2項。質疑応答事例 |
国税庁の質疑応答事例(共同相続人に該当しない親権者が未成年者である子に代理して遺産分割協議書を作成する場合、2026-09-11確認)は、親権者が共同相続人として参加するかどうかで分けて答えています。
特別代理人の候補には、相続に利害の無い親族などを立てるのが一般的です。選任は家庭裁判所への申立てで行い、協議書の案を添えて審査を受けます。
認知症、海外居住、行方不明
- 認知症などで判断能力が無い相続人: 本人が協議に参加できず、代わりに署名した協議書は無効になり得る。成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立て、後見人が協議に参加する。選任までの期間と、後見人が本人の法定相続分を確保する方向で動くことは認知症の所有者の空き家にまとめている
- 海外在住の相続人: 日本に住民登録が無いと印鑑証明書が取れない。日本大使館や領事館で発行する署名証明(サイン証明)を協議書に添える方法が使われている。詳細は相続登記の義務化の海外居住の節を参照
- 行方不明の相続人: 連絡が取れない相続人を外して協議しても成立しない。不在者財産管理人の選任などの制度は共有名義の空き家の該当節を参照
- 相続放棄した人: 初めから相続人でなかったものとされる(国税庁 No.4132)。協議には入れず、署名も要らない。放棄の受理を証する書面を登記の際に添える
どの場合も、協議書に署名する前に家庭裁判所や在外公館の手続きが挟まります。相続登記の期限から逆算して、先に着手するのが安全です。
専門家に頼む場合の費用
💡 この章の要点: 司法書士の報酬に基準は無く、各事務所が自由に決める。日司連の2024年3月のアンケートでは、評価額1,000万円の土地1筆と建物1棟、相続人3名のうち1名が単独取得、戸籍5通の取得と協議書と相続関係説明図の作成、登記申請の代理 を含む設例で 平均74,888円(税込、有効回答1,109)。これに 登録免許税(評価額の1,000分の4) と戸籍の実費が別にかかる。
報酬アンケートの数字
日本司法書士会連合会は「司法書士の報酬は、各司法書士が自由に定める」としたうえで、全国の会員に対する報酬アンケートの結果を公開しています(司法書士の報酬、2026-09-11確認)。
最新のものは2024年(令和6年)3月に全国の会員5,558名を対象に行われ、金額は税込で示されています(報酬に関するアンケート結果、2026-09-11確認)。
| 設例 | 内容 | 平均額(税込) | 有効回答 |
|---|---|---|---|
| 所有権移転登記(相続) | 土地1筆と建物1棟(固定資産評価額の合計1,000万円)。戸籍謄本等5通の交付請求、登記原因証明情報(遺産分割協議書と相続関係説明図)の作成、登記申請の代理。法定相続人3名のうち1名が単独相続 | 74,888円 | 1,109 |
| 遺産承継 | 3つの金融機関に各1,000万円の預貯金。相続人3人が各1,000万円を取得する方針で、遺産承継業務委任契約書と遺産分割協議書を作成し、口座の解約と各人への振込を代理 | 272,780円 | 502 |
- 協議書の作成は相続登記の報酬に含まれる設例: 上の設例は協議書と相続関係説明図の作成込みの金額で、協議書だけを切り出した額はアンケートに無い
- 別途かかるもの: 登録免許税(相続登記は課税価格の1,000分の4)、戸籍謄本などの実費。日司連のコメントも「相続人や不動産の数等により大きく左右されます」としている
- 金額の分布: 相続の設例では5万円台から7万円台の回答が最も多く、10万円以上の回答も一定数ある(アンケートの柱状グラフ)
自分で作るか、頼むか
| 自分で作る | 司法書士に頼む | |
|---|---|---|
| 向く状況 | 相続人が少なく全員が協力的。物件が1〜2件で登記事項証明書どおりに書ける | 相続人が多い、遠方や海外にいる、数次相続、未成年や後見が絡む、換価や代償の条項を税務まで見て作りたい |
| 費用 | 登録免許税と戸籍の実費のみ | 上記の報酬に実費が加わる |
| リスク | 差し戻しで実印集めをやり直す。表示の漏れが売却時に発覚する | 報酬が事務所ごとに違う。見積もりで内訳を確かめる |
| 相談先 | 法務局は協議書の作り方の相談には応じない | 協議書の文面、登記、必要なら税理士との連携まで一括 |
換価分割で買取業者に売る場合、業者側が司法書士と連携して協議書と登記をまとめて段取りすることがあります。
- 査定の段階で伝えること: 相続人の人数と居住地、協議書がまだ無いこと、登記名義が被相続人のままであること
- 業者側から示されるもの: 決済までに必要な書類と順番。協議書の文面も司法書士が整えることが多い
- 先に自力で作る必要はない: 作ってから相談すると、換価分割の条項や不動産の表示を直すために実印を集め直すことになりやすい
遺産分割協議書のよくある質問
- 1. 手書きでもよいですか?
問題ありません。書式に決まりはなく、パソコンで作っても手書きでもかまいません。法務局は登記申請書について、パソコン入力または黒インクや黒ボールペン(消せるものは不可)で書き、鉛筆は不可としています。協議書も同じ基準で作るのが無難です。署名は自筆、押印は実印にします。
- 2. 相続人が1人しかいません。協議書は要りますか?
要りません。協議する相手がいないので、戸籍で相続人が1人であることを示せば相続登記ができます。遺言書で分け方が指定されている場合も、その内容どおりに登記するなら原則として協議書は要りません(民法908条1項)。
- 3. 法定相続分どおりに分けるなら協議書は不要と聞きました。本当ですか?
登記については本当です。法務局の必要書類一覧では、法定相続分の相続の場合に協議書と印鑑証明書が載っていません。ただし、それは不動産を相続人全員の共有名義にするということです。
- 売るとき: 共有者全員の同意と署名が要る
- 分け直すとき: 持分の交換として課税され得る(国税庁 質疑応答事例)
- 売る予定があるなら: 協議書で換価分割か単独取得にしておくほうが後の手間が減る
- 4. 印鑑証明書は3か月以内のものが必要ですか?
相続登記については、その制約はありません。法務局の案内に「作成後3か月以内のものといった制約はありません」と明記されています。金融機関や証券会社は独自に期限を設けていることがあるので、提出先ごとに確かめてください。
- 5. 不動産だけ先に決めて、預貯金はあとで決めてもよいですか?
できます。民法907条1項は「遺産の全部又は一部の分割」を協議でできるとしています。協議書には、その協議書が対象とする財産を明示し、「その他の遺産については別途協議する」と書いておきます。
- 6. 兄の名義で登記して売り、代金を分けると贈与税がかかりますか?
登記が換価のための便宜であり、代金が協議書どおりに分配されるなら、贈与税の課税は問題にならないというのが国税庁の質疑応答事例です。協議書に書くのは次の3点です。
- 換価分割であること: 売って代金を分ける目的で取得すると明記する
- 単独名義が便宜であること: 「換価の便宜のため兄の名義で相続登記をする」と書く
- 分配の割合: 費用を引いた残額を何対何で分けるかまで書き、そのとおりに振り込んで記録を残す
譲渡所得の申告は、代金を受け取った各自が自分の取得割合で行います。
- 7. 協議書を作ったあとに財産が見つかりました。作り直しですか?
予備的条項があれば作り直しは要りません。「本協議書に記載のない遺産が後日判明した場合は◯◯が取得する(または別途協議する)」という条項を入れておきます。条項が無ければ、見つかった財産についてもう一度全員で協議し、その財産だけの協議書を作ります。
- 8. 遺産分割協議がまとまりません。どうすればよいですか?
家庭裁判所に分割を請求できます(民法907条2項)。協議が調わないとき、または協議ができないときは、各相続人が遺産の全部または一部の分割を家庭裁判所に求められます。
- 調停で決まったら: 調停調書が協議書の代わりになり、相続人の実印や印鑑証明書は要らない
- 注意点: 法務局は「調停調書に対象不動産が漏れていると、その調書では登記できない」としている。申立て前に物件の一覧を確定させる
- 協議の前にできること: 買取業者の査定額を物差しにすると、「売って分けるといくらずつか」が具体的になり、協議が動くことがある
まとめ 登記に通り、税務で揉めない遺産分割協議書
協議書を書く前に確かめる点を、順番どおりに並べ直します。
- 必須項目は6つ: 被相続人の特定(死亡日、最後の住所、氏名)、相続人全員、分割の内容、作成日、全員の住所氏名と実印、不動産の表示
- 不動産の表示: 住所ではなく登記事項証明書の表記(所在、地番、地目、地積、家屋番号、種類、構造、床面積)を写す。私道持分や物置の漏れに注意
- 印鑑証明書: 全員分。相続登記については3か月以内という制約は無い(法務局の案内)
- 日付の使い分け: 協議書の作成日は合意日、登記申請書の「原因」は死亡日
- 換価分割: 代表者名義での登記は「換価の便宜」と協議書に書き、分配割合まで明記する。譲渡所得は売る前に割合を決めておけばその割合で申告できる(国税庁 質疑応答事例)
- 代償分割: 「代償として」と金額、期限、方法を書く。課税価格は現物の価額から代償金を引く(No.4173)。固有の不動産を代償にすると譲渡になる
- 共有分割: 書くのは簡単だが、あとで分け直すと持分の交換として課税され得る
- 相談先: 法務局は協議書の作り方の相談に応じない。司法書士の相続登記の報酬はアンケート平均74,888円(協議書作成込みの設例、2024年3月)
冒頭の場面に戻ります。実家を売って分けるつもりなら、協議書に書くべきことは決まっています。換価分割であること、誰の名義で登記するか、代金から何を引いて何対何で分けるか。この3つを書いた協議書と、登記事項証明書どおりの不動産の表示、全員の実印と印鑑証明書があれば、法務局と税務の両方を一度で通せます。
残るのは「いくらで、いつ売るか」だけです。それは協議書ではなく、査定で決まります。





