建物滅失登記のやり方|自分で申請する手順・必要書類・期限と過料【2026】
実家の解体が終わり、業者から「滅失登記は施主さんの方でお願いします」と一枚の証明書を渡された。法務局の様式を開くと、注1から注6までの小さな文字が並んでいて、自分でできるのか、誰かに頼むのか、期限はいつなのかが読み取れない。この記事は、その一枚を手に持っている人のために書いています。
先に結論を3点にまとめます。
- 建物滅失登記は、解体業者の証明書と登記事項証明書があれば自分で申請できます。申請書は法務局の様式1枚で、図面は要りません。窓口、郵送、オンラインのどれでも出せます
- 期限は取り壊しの日から1か月、怠ると10万円以下の過料の対象です。登記簿に建物が残ったままだと、土地を売るときに現地と登記が食い違います
- 名義人が亡くなっていても、相続登記を待たずに相続人の1人から申請できます。戸籍など添える書類が増えるだけです
解体をまだ決めていない人は、順番が逆になります。建物を残したまま現況で売る道では、解体も滅失登記も売主の仕事になりません。この分岐は状況別ガイドの最初の行と、記事の後半に置きました。
建物滅失登記 状況別ガイド
💡 この章の要点: 滅失登記で迷う人は、解体をまだ決めていない人、解体が終わって証明書を持っている人、名義が亡くなった親のままの人、証明書が手元にない人に分かれます。自分の状況に近い章から読むと、申請するか頼むかを先に決められます。
| あなたの状況 | 先に読む章 |
|---|---|
| 解体するかどうかをまだ決めていない | 解体の前に。現況のまま売る道 |
| 解体が終わり、業者から証明書を受け取った | 自分で申請する5つのステップ |
| 何を揃えればよいかだけ知りたい | 必要書類チェックリスト |
| 名義が亡くなった親のまま | 名義人が亡くなっている場合 |
| 業者の証明書が取れない、登記簿と現地が合わない | 建物滅失証明書が取れない場合 |
| 自分でやるか土地家屋調査士に頼むか迷う | 自分でやる場合と頼む場合の比較 |
| 期限と、しなかったときに何が起きるかを知りたい | 建物滅失登記とは |
| 解体費の相場、業者の選び方、工程全体を知りたい | 解体費用2026、解体業者の選び方 |
建物滅失登記とは。誰が、いつまでに、しないとどうなるか
💡 この章の要点: 建物滅失登記は、登記簿から建物の記録を閉じる手続きです。申請するのは所有権の登記名義人(または表題部所有者)、期限は滅失の日から1か月以内、怠ると10万円以下の過料の対象になります。しないままだと登記簿に建物が残り、土地の売却や建て替えの前に、現地と登記の食い違いを直すことになります。
建物を取り壊しても、登記簿は自動で書き換わりません。解体業者は工事を終えて現場を引き渡すところまでが仕事で、登記簿上の建物を消すのは所有者の申請です。法務局も「建物を取り壊した」場合の手続きとして、建物の滅失の登記を案内しています(法務局)。
誰が、いつまでに
不動産登記法は、申請する人と期限をこう定めています(不動産登記法57条)。
- 申請する人: 建物の表題部所有者または所有権の登記名義人。登記簿の甲区に載っている現在の名義人です
- 期限: 建物が滅失した日から1月以内。取り壊しの場合は、解体業者の証明書に書かれた取壊しの日が起点になります
- 怠ったとき: 正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料の対象になります(同164条)
「滅失」は取り壊しだけでなく、火災や地震で建物がなくなった場合も含みます。この記事は、相続した家を解体した人を想定して「取壊し」のケースで書きます。
しないままだと何が起きるか
過料より先に困るのは、登記簿と現地の食い違いです。
- 土地を売るとき: 登記簿上は建物が建っている土地のまま記録が残ります。更地として売るなら、買主側は建物の記録が消えていることを確かめるので、売買の前に滅失登記を済ませることになります
- 建て替えるとき: 新しい建物の登記(表題登記)をする前に、古い建物の記録を閉じておくことになります
- 相続のとき: 存在しない建物の登記が次の世代に渡り、誰が申請人になるかがさらに複雑になります
どの場面でも、滅失登記そのものが難しくなるわけではありません。ただ、売却の直前や相続の最中に「あの証明書はどこにあったか」と探すことになるので、業者から証明書を受け取った月のうちに済ませるのが一番楽です。
固定資産税との接点
解体すると、土地の固定資産税の住宅用地特例(200㎡以下は課税標準が1/6、超える部分は1/3。総務省)の対象から外れます。
税が上がる仕組みと1月1日をまたぐかどうかの判断は空き家の固定資産税が担当しています。滅失登記と関わるのは次の3点です。
- 課税の基準日: 固定資産税は賦課期日(1月1日)の状況で課税されるので、年の途中で取り壊しても、その年度分の家屋の税は納めます(千葉市、秋田市)
- 登記された建物: 滅失登記が完了すると、法務局から市役所へ登記された旨が通知されるので、市役所で別に申請する必要はありません(鹿児島市)
- 登記されていない建物: 滅失登記の申請はできません(長崎地方法務局)。代わりに市区町村の資産税担当へ「家屋滅失届」を出します。千葉市、鹿児島市、秋田市が案内しており、鹿児島市は取り壊した年の年末までの連絡を求めています
登記のある建物なら法務局への申請1本で済み、未登記の物置や増築部分があれば市役所への届出が別に要る、という2本立てです。
市役所への届出は登記の代わりにはなりません。神戸市は、この届出が「不動産登記法によるものではない」と明記し、登記は別途行うよう案内しています(神戸市)。
建物滅失登記を自分で申請する5つのステップ
💡 この章の要点: 手順は登記事項証明書で現状を確かめる、業者から証明書を受け取る、申請書を1枚書く、法務局に出す、完了を受け取るの5つです。法務局の記載例にある注1〜注6を、何をどこから写すかに直した表をこの章に置きました。窓口、郵送、オンラインのどれでも出せます。
法務局の様式ページには、建物滅失登記申請書の様式と記載例が置かれています(法務局 不動産登記の申請書様式について)。様式は1枚で、求められるのは建物の特定と、取り壊した事実の証明だけです。測量も図面も要りません。
[1] 登記事項証明書を取る
→ 建物が登記されているか、名義人は誰か、所在と家屋番号と不動産番号を写す
[2] 解体業者から建物滅失証明書を受け取る
→ 法人なら会社法人等番号を聞く(資格証明書と印鑑証明書を省略できる)
[3] 申請書を1枚作る(法務局の様式)
→ 登記事項証明書どおりに建物を書き、取壊しの日を証明書から写す
[4] 管轄の法務局に出す
→ 窓口、郵送(書留)、オンラインのどれか
[5] 登記完了証を受け取る
→ 原本還付を頼んだ書類が戻る。市役所へは法務局から通知が行く
ステップ1 登記事項証明書で、何が登記されているかを確かめる
最初に取るのは、取り壊した建物の登記事項証明書です。申請書は「現在の登記記録に記録されているとおりに」書くよう求められているので(記載例注6)、固定資産税の通知書ではなく登記簿の文言を写します。
- 確かめること: 建物が登記されているか、所有権の登記名義人は誰か、住所は現住所と一致しているか
- 写すこと: 所在、家屋番号、種類、構造、床面積、不動産番号。不動産番号を書けば所在などの記載を省略できます(注5)
- 複数棟のとき: 母屋のほかに登記された物置や蔵があれば1棟ずつ確かめます。附属建物として同じ登記に載っていることもあります
- 手数料: 書面で請求すると1通600円、オンラインで請求して郵送なら520円、窓口で受け取るなら490円です(法務省 登記手数料について、令和7年4月1日から)
登記されていない建物だった場合は、ここで分岐します。滅失登記は申請できないので、前の章で書いた市区町村への家屋滅失届に切り替えます。
ステップ2 解体業者から建物滅失証明書を受け取る
申請書の添付情報は「建物滅失証明書」の1つです。記載例の注1は、この証明書を「建物を取り壊した工事請負人の証明書」と説明し、真実性を確かめるための書類を一緒に出すよう求めています。
- 証明書に書かれていること: 建物の表示(所在と家屋番号)、滅失の理由(○年○月○日取壊し)、所有者、取り壊したことを証明する文言、日付、工事請負人の名称と代表者と印
- 業者が法人の場合: 代表者の資格を証する書面(登記事項証明書など)と、登記所で交付される代表者の印鑑証明書
- 業者が個人の場合: その個人の印鑑証明書
- 省略できる条件: 申請書に業者の会社法人等番号を書けば、資格を証する書面と印鑑証明書の添付を省略できます(登記所に印鑑を登録している法人に限る)
実務でいちばん効くのは最後の点です。業者に「会社法人等番号を教えてください」と一言頼めば、印鑑証明書を取ってもらう手間が消えます。解体の契約時に証明書の発行と番号の提供を確認しておくと、工事後に連絡を取り直す必要がなくなります。契約時に確かめる項目の全体は解体業者の選び方にまとめています。
ステップ3 申請書を1枚作る。記載例の注1〜注6を実務の言葉に直す
様式は法務局のPDFから取れます。記載例の注1〜注6をそのまま読むと硬いので、何をどこから写すかに直した表にしました。
| 欄 | 法務局の注の趣旨 | 実務では何をどこから写すか |
|---|---|---|
| 登記の目的 | 「建物滅失」と書く | 様式に印字済み |
| 添付情報 | 建物滅失証明書。法人の会社法人等番号を書けば資格証明書と印鑑証明書を省略できる(注1) | 業者から聞いた会社法人等番号を括弧内に書く |
| 申請日 | 申請書を登記所に提出する日(注2) | 窓口なら出す日。郵送なら法務局に届く見込みの日。迷えば空欄で持参し、窓口で書く |
| 申請先 | 不動産の所在地を管轄する法務局(支局・出張所) | 法務局の管轄案内で建物の所在地から探す。自分の住所地ではない |
| 申請人 | 登記記録の甲区に記録されている現在の登記名義人の住所と氏名。氏名の末尾に認印。甲区がなければ表題部末尾の所有者(注3) | 登記事項証明書の甲区の最後の名義人をそのまま写す。住所が今と違えば、異動の経過が分かる住民票の写しや戸籍の附票の写しを添える |
| 連絡先の電話番号 | 補正の連絡を受けられる、平日の日中につながる番号。携帯可(注4) | 日中に出られる携帯電話 |
| 不動産番号 | 書けば所在、家屋番号、種類、構造、床面積を省略できる(注5) | 登記事項証明書に載っている13桁の番号 |
| 建物の表示 | 現在の登記記録のとおりに書く(注6) | 登記事項証明書の表題部を1字ずつ写す。固定資産税の通知書の床面積と違っても登記簿を優先 |
| 登記原因及びその日付 | 建物滅失証明書に記載された取壊しの日(注6) | 「令和○年○月○日取壊し」。業者の証明書の日付を写す |
| 複数枚になるとき | 各用紙のつづりに契印 | 2枚以上なら申請人の印で契印 |
書き方の約束も、様式ページにまとまっています(法務局)。
- 用紙と筆記: A4、添付書類と一緒に左とじ。パソコンで入力するか、黒色インクか黒色ボールペン。消えるペンと鉛筆は不可
- 添付書類は原本: 住民票の写しなども証明書の原本を添付します。返してほしい書類は、写しを作って「原本に相違ありません。」と書き、申請書に押した印で署名押印して原本と一緒に出すと、登記完了後に原本が戻ります(原本還付)
- マイナンバー: 不動産登記の手続きでは個人番号を使えないので、個人番号の記載がない住民票の写しを添えます
ステップ4 管轄の法務局に出す。窓口、郵送、オンラインの3つ
出し方は3つあり、どれでも効力は同じです。違いは、足を運ぶか、電子署名の準備をするかです。
| 出し方 | 必要なもの | 向く人 |
|---|---|---|
| 窓口 | 申請書と添付書類の原本。認印 | 法務局が近く、その場で補正の指示を受けたい人 |
| 郵送 | 書留郵便。封筒の表に「不動産登記申請書在中」。登記完了証や原本還付の返送を希望するなら宛名を書いた返信用封筒と書留分の郵券(法務局、長崎地方法務局) | 遠方に住んでいて、実家のある法務局に行けない人 |
| オンライン | 登記・供託オンライン申請システム。建物滅失の登記申請はWebブラウザから申請できる手続きに含まれる(手続ごとの申請方法一覧表) | パソコン操作に慣れ、電子申請の準備ができる人 |
オンラインについて、確かめられた範囲を書きます。
- Webブラウザから出せる不動産登記: 「建物滅失の登記申請」と「登記名義人の表示変更の登記申請」の2つだけです(同一覧表の注)
- 申請用総合ソフト: すべての手続きを扱えるソフトで、作成した申請情報には申請人または代理人の電子署名が必要です(法務省)
- 時間: システムの利用は平日8時30分〜23時、休日8時30分〜18時(登記・供託オンライン申請システム)。登記申請の受付は平日8時30分〜17時15分で、それ以降に送ると翌業務日の受付になります(法務省)
- QRコード付き書面申請: 申請用総合ソフトで申請書を作って送信し、印刷した書面を持参か郵送する中間の形。電子証明書がなくても使えます(法務局)
Webブラウザからの申請で電子署名が要るかどうかは、この記事を書く時点で一次情報を確かめられませんでした。オンラインを選ぶなら、同システムの手続案内で建物滅失の登記申請の要件を見てから始めてください。
ステップ5 登記完了証を受け取る
登記が完了すると登記完了証が交付され、原本還付を頼んだ書類が戻ります。郵送で受け取るなら、返信用封筒と郵券を申請時に同封しておきます。返送は書留のみです(長崎地方法務局)。
- 市役所: 登記された建物なら、法務局から市役所へ通知が行くので別の申請は不要です(鹿児島市)
- 保管: 登記完了証と業者の証明書の写しは、土地を売るときの資料になるので土地の権利証と一緒に保管します
建物滅失登記の必要書類チェックリスト
💡 この章の要点: 名義人本人が申請するなら、申請書、建物滅失証明書、業者の資格証明書と印鑑証明書(会社法人等番号を書けば省略)で足ります。住所が登記簿と違えば住民票の写しなど、名義人が亡くなっていれば戸籍など、代理人に頼むなら委任状が加わります。
どの場合に何が増えるかを、1つの表にしました。軸は、法務局が公開している「提出前のチェックリスト」です(長崎、佐賀)。
| 書類 | 誰が用意するか | 必要になる場合 |
|---|---|---|
| 建物滅失登記申請書 | 申請人 | 全員。法務局の様式を使う |
| 建物滅失証明書 | 解体業者 | 全員。取壊しの日と建物の表示が登記簿と合っているかを、受け取ったときに確かめる |
| 業者の代表者の資格を証する書面(登記事項証明書など) | 解体業者 | 業者が法人のとき。申請書に会社法人等番号を書けば省略できる |
| 業者の印鑑証明書 | 解体業者 | 法人なら登記所交付の代表者印鑑証明書、個人なら個人の印鑑証明書。法人は会社法人等番号を書けば省略できる |
| 登記事項証明書(建物) | 申請人 | 添付は不要だが、申請書を正確に書くために取る |
| 住民票の写し、戸籍の附票の写しなど | 申請人 | 登記簿上の住所や氏名と現在のものが違うとき。異動の経過が分かるもの |
| 名義人の死亡が分かる戸籍、申請人が相続人であることが分かる戸籍、登記簿上の住所と本籍のつながりが分かる戸籍の附票など、相続人の住民票または戸籍の附票 | 申請人(相続人) | 登記名義人が亡くなっているとき。詳細は次の章 |
| 委任状(代理権限証書) | 申請人 | 土地家屋調査士などに頼むとき。委任した日付を入れる |
| 返信用封筒と書留分の郵券 | 申請人 | 登記完了証や原本の返送を郵送で受けたいとき |
チェックリストには、見落としやすい注意も2つ書かれています。
- 建物の表示は登記簿と一致させる: 登記事項証明書の記載と合っていなければならず、違っていれば補正の連絡が来ます
- 申請先は不動産の所在地を管轄する法務局: 自分の住所地の法務局ではありません。郵送なら管轄の支局や出張所の住所を確かめます
登記名義人が亡くなっている場合。相続人の1人から申請できる
💡 この章の要点: 相続した実家の名義が亡くなった親のままでも、滅失登記は相続人の1人から申請できます。相続登記を先に済ませる必要はありません。加わるのは、名義人の死亡と自分が相続人であることが分かる戸籍などと、自分の住民票または戸籍の附票です。土地の相続登記は別の義務として残ります。
「名義が父のままだから、先に相続登記をしないと滅失登記はできない」と思っている人が多いのですが、順番は逆でもかまいません。
根拠は2つあります。
- 不動産登記法30条: 表題部所有者または所有権の登記名義人に相続があったとき、相続人がその表示に関する登記を申請できると定めています(e-Govがメンテナンス中のため衆議院の制定時条文で確認)。建物の滅失登記は表示に関する登記なので、この条文が使えます
- 法務局のチェックリスト: 長崎と佐賀の地方法務局が、実務の言葉で同じことを書いています(長崎地方法務局、佐賀地方法務局)
チェックリストの中身は次のとおりです。
- 申請できる人: 所有者が死亡している場合は、相続人の1人から登記申請ができます。相続人全員で申請する必要はありません
- 添える書類1: 所有者が死亡した記載のある戸籍
- 添える書類2: 申請する人が所有者の相続人であることが確認できる戸籍
- 添える書類3: 登記簿に記載されている所有者の住所と、所有者の本籍のつながりを確認できる戸籍の附票など(本籍が記載されているもの)
- 添える書類4: 相続人(申請人)の住民票または戸籍の附票
3つめの書類が要るのは、登記簿には本籍が載っておらず、住所しか記録されていないからです。登記簿の「○○町二丁目5番6号の法務太郎」と、戸籍の「本籍○○の法務太郎」が同じ人だと示す橋が、戸籍の附票です。古い登記だと住所が何度も変わっていることがあり、その場合は異動の経過をつなげる附票や除票を集めます。
相続登記は別の義務として残る
滅失登記を相続人の1人が済ませても、土地の名義は亡くなった親のままです。
- 土地の相続登記: 相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内の申請義務があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります(法務省)。詳しくは相続登記の義務化
- 売却との関係: 土地を売るには相続登記を済ませて相続人の名義にしてからです。滅失登記で建物の記録を閉じ、相続登記で土地の名義を直す、という2本立てになります
- 順番: 滅失登記は1か月の期限が先に来るので相続人の1人が先に出し、相続登記は遺産分割の協議がまとまってから、という順が現実的です
申請人欄に相続人としてどう書くかは、法務局の様式の記載例には載っていません。管轄の法務局に電話して「所有者が死亡していて相続人が申請する」と伝えると、申請人欄の書き方と添付書類を案内してもらえます。法務局の様式ページも、不明な点は管轄の法務局に相談するよう促しています。
建物滅失証明書が取れない、登記簿と現地が合わない場合
💡 この章の要点: 証明書を出す業者が廃業している、何十年も前に壊した、自分で壊した、登記簿上の建物と現地が合わない。こうしたときの代わりの書面は、法務局の公開資料では確かめられませんでした。管轄の法務局に事前相談するのが、この記事で言える唯一の手順です。災害時には法務局が職権で滅失登記をする例がありますが、平時の取り壊しで当てにできる制度ではありません。
建物滅失証明書は、取り壊した工事請負人が出すものです(記載例注1)。相続した実家では、この前提が崩れていることがあります。
- 業者が分からない、廃業している: 親の代に壊した物置や蔵で、誰が壊したか記録がない
- 自分や親族で壊した: 工事請負人がいない
- 登記簿と現地が合わない: 登記簿には母屋と附属建物があるのに現地には母屋しかない、増築部分が未登記、登記簿にない建物が建っていた。蔵や納屋の多い古民家で起きやすく、解体前に登記簿と現地を照らし合わせる手順は古民家の解体にも書きました
こうした場合に何を添えればよいかは、インターネット上に「上申書を出す」という解説が多くあります。ただ、この記事を書く時点で法務局や法務省の公開資料でその要件を確かめることができませんでした。確かめられないものは書かず、手順を1つに絞ります。
[1] 建物の登記事項証明書を取り、登記簿上の建物の一覧を作る
[2] 現地の状況(何が残っていて何がないか、いつ頃壊したか)をメモにする
[3] 管轄の法務局に電話して「建物滅失証明書が取れない滅失登記」として事前相談を予約する
[4] 法務局の案内に沿って書類を集める。難しければ土地家屋調査士に依頼する
職権による滅失登記は災害時の特例
表示に関する登記は、登記官が職権ですることもできます(不動産登記法28条。衆議院の制定時条文)。実際に使われているのは災害のときです。
- 令和6年能登半島地震: 金沢地方法務局は、市町からの申出により、自然倒壊した建物、公費解体した建物、自費で先行解体して費用償還の対象になる建物を職権で滅失登記しました(金沢地方法務局)。富山地方法務局も同じ趣旨の予定を公表しています(富山地方法務局)
- 火災: 大分地方法務局は、火災で滅失した建物を法務局が職権で登記し、急ぐ場合は自分で申請もできると案内しています(大分地方法務局)
どれも被災者の負担を減らす措置で、通常の取り壊しで「法務局がやってくれる」と期待する根拠にはなりません。富山地方法務局の案内も、原則は所有者またはその相続人が申請する義務だと書いています。
自分でやる場合と土地家屋調査士に頼む場合の比較

💡 この章の要点: 表示に関する登記の代理は土地家屋調査士の仕事です(司法書士ではありません)。頼んだ場合の報酬は、日本土地家屋調査士会連合会の2025年度アンケートで全国平均52,132円(税抜)、中央値50,000円。業者の証明書が揃っていて名義人本人が申請できるなら自分でやる、証明書が取れない、名義が複雑なら頼む、が分かれ目です。
登記の申請を代理できる専門家は2種類で、担当が分かれています(法務局 よくある質問)。
- 土地家屋調査士: 建物の新築の登記や土地の分筆など、不動産の表示に関する登記。建物滅失登記はここに入ります
- 司法書士: 所有権の移転や抵当権の設定など、不動産の権利に関する登記。相続登記はこちらです
報酬の目安は一次資料の数字だけを使う
土地家屋調査士の報酬は2003年8月1日に自由化され、事務所ごとに決められています。日本土地家屋調査士会連合会は3年に一度、会員にアンケートを取って目安を公表しています(2025年度アンケートによる土地家屋調査士報酬ガイド)。建物滅失登記の数字は次のとおりです。
- 全国平均: 52,132円(税抜)
- 中央値: 50,000円
- 標準偏差: 13,489円(ばらつきの大きさ)
- 前提の建物: 木造かわらぶき2階建の居宅(1階89.21㎡、2階46.18㎡)と附属建物の物置。事務所から現場まで約4km、登記所まで約6km。預かる書類は建物取壊証明書と法人印鑑証明書
- 含まれないもの: 実費(収入印紙代、交通費、通信費など)は別。ガイドも「見積りだけで判断せず、現地の状況や事情を説明、相談のうえ依頼」するよう書いています
この数字は、業者の証明書が揃っているよくある木造2階建の場合です。証明書が取れない、名義人が亡くなっていて戸籍を集める、登記簿と現地が合わない、といった条件が加われば、調査や書類作成の工程が増えます。
比較表
| 比べる点 | 自分で申請する | 土地家屋調査士に頼む |
|---|---|---|
| かかる費用 | 登記事項証明書の手数料(書面600円、オンライン520円または490円)、郵送なら書留の郵便料 | 報酬(2025年度アンケートの全国平均52,132円、税抜)と実費 |
| かかる手間 | 登記事項証明書を取る、業者に会社法人等番号を聞く、様式を1枚書く、法務局に出す | 委任状を書き、業者の証明書を渡す |
| 向く状況 | 業者の証明書が手元にあり、名義人本人が申請できる。名義人死亡でも戸籍を自分で集められる | 証明書が取れない、登記簿と現地が合わない、相続関係が複雑、遠方で時間が取れない |
| 期限との関係 | 1か月の期限を自分で管理する | 依頼の時点で期限を伝えれば段取りしてもらえる |
| 法務局とのやり取り | 補正の連絡は自分に来る(注4の電話番号) | 代理人に来る |
| 相続登記との関係 | 滅失登記だけで終わる。土地の相続登記は別に司法書士か自分で | 調査士は滅失登記まで。相続登記は司法書士に別途依頼 |
自分でやる場合の費用は、確かめられた一次情報の範囲では登記事項証明書の手数料と郵送料だけです。それ以外に法務局に納める費用があるかどうかは、申請の前に管轄の法務局に確かめてください。
解体の前に。現況のまま売る道では滅失登記は売主の仕事ではない

💡 この章の要点: 解体してから売ると、解体費の先払いと滅失登記が売主の仕事になります。建物を残したまま現況で売ると、解体するかどうかは買主が決め、取り壊したときの滅失登記も買主(取り壊した時点の所有者)の義務になります。どちらが得かは手取りで比べる話で、滅失登記の手間はその一部です。
ここまで読んで「解体しなければ、この手続き自体がない」と気づいた人もいるはずです。そのとおりで、滅失登記の義務を負うのは取り壊した時点の所有権の登記名義人です。建物が建ったままの土地を売れば、壊すかどうかを決めるのも、壊したあとに1か月以内で登記するのも、新しい所有者です。
| 比べる点 | 解体してから売る | 建物を残して現況で売る |
|---|---|---|
| 解体費 | 売主が先に払う。相場は解体費用2026 | 買主が負担する(その分を引いた価格になる) |
| 滅失登記 | 売主が1か月以内に申請する | 買主が取り壊したときに買主が申請する |
| 固定資産税 | 更地になった翌年の1月1日から住宅用地特例が外れる | 引き渡しまで特例が続く |
| 契約の論点 | 更地渡しの範囲(基礎、庭木、残置物) | 建物の契約不適合責任の免責、残置物の扱い |
| 向く人 | 土地に需要があり、解体費を先に出せて、手続きの時間が取れる | 遠方で通えない、先払いを避けたい、建物を活かす買主が見込める |
解体するか売るかの損得は解体するか売るか、古家付き土地として売るときの契約の書き方と、買主が解体する場合の滅失登記の担当の決め方は古家付き土地を更地にせず売る方法にまとめています。
買取業者が建物を残したまま現況で買い取れば、その後の解体と滅失登記は買主である業者側の手続きになります。アキラッキーも、建物が建ったままの現況買取に対応しています。解体の見積もりを取る前に現況での買取価格を聞いておくと、「解体費を払って更地で売る手取り」と「先払いなしで現況で売る手取り」を並べて選べます。
具体例。築45年の木造平屋を解体した長男が、亡父名義のまま滅失登記を出すまで
💡 この章の要点: 地方の木造平屋を相続した県外在住の長男が、解体後に名義が亡父のままだと気づき、相続人の1人として滅失登記を郵送で出す架空の例です。登記事項証明書、業者の証明書と会社法人等番号、戸籍と附票、申請書1枚を揃え、取り壊しから1か月以内に投函するまでを追います。日付と金額は架空です。
例を一つ置きます。細部を簡略化した架空の例で、日付と金額も架空です。
- 家: 地方都市郊外の木造かわらぶき平屋。1981年築(築45年)。母屋のほかに登記された物置が附属建物として同じ登記に載っている
- 相続: 2025年11月に父が死去。相続人は長男と長女の2人。長男は県外在住で、実家まで車で2時間
- 決めたこと: 土地は地元の需要があるので、解体して更地で売る方針。相続登記は遺産分割の話がまとまってから
- 解体: 2026年8月に地元の解体業者(法人)に依頼し、9月12日に取り壊し完了
| 日付(架空) | 長男がしたこと | この記事の章 |
|---|---|---|
| 9月12日 | 取り壊し完了。業者から建物滅失証明書を受け取る。取壊しの日は9月12日と記載。会社法人等番号を聞いてメモ | ステップ2 |
| 9月14日 | 登記事項証明書をオンラインで請求し、郵送で受け取る(520円)。名義が父のまま、父の住所も登記当時のままだと分かる | ステップ1 |
| 9月16日 | 管轄の法務局に電話し、所有者死亡で相続人が申請する場合の申請人欄の書き方と添付書類を確認 | 名義人が亡くなっている場合 |
| 9月17日〜24日 | 父の死亡の記載がある戸籍、自分が相続人であることが分かる戸籍、父の本籍と登記簿上の住所をつなぐ戸籍の附票、自分の住民票を取る | 必要書類チェックリスト |
| 9月26日 | 法務局の様式に、登記事項証明書どおりの建物の表示と「令和8年9月12日取壊し」を記入。添付情報欄に会社法人等番号を書く。戸籍の原本還付用に写しを作り「原本に相違ありません。」と記して押印 | ステップ3 |
| 9月27日 | 書留で郵送。封筒に「不動産登記申請書在中」。返信用封筒と書留分の郵券を同封 | ステップ4 |
| 10月上旬 | 登記完了証と戸籍の原本が書留で戻る | ステップ5 |
| 10月以降 | 長女と遺産分割の協議。まとまったら土地の相続登記を司法書士に依頼し、更地として売却へ | 相続登記は別の義務 |
この例から拾える判断材料は3つです。
- 1か月の期限は、戸籍集めで消える: 取り壊しの翌々日に動き始めても、戸籍と附票を集めるのに1週間かかった。名義が亡父のままだと分かっているなら、解体の前に戸籍を集めておけた
- 会社法人等番号の一言で書類が2つ減った: 業者の資格証明書と印鑑証明書を取ってもらう手間がなくなり、業者に連絡し直す必要もなかった
- 滅失登記と相続登記は別の時計で動いた: 滅失登記は1か月、相続登記は3年。先に来る期限を相続人の1人が片付け、名義の話は協議のあとに回せた
この例が成り立たない場面もあります。
- 物置が未登記だった場合: 滅失登記の対象は登記された母屋だけになり、物置は市役所への家屋滅失届に分かれる
- 土地に需要がなく、解体費が戻る見込みがなかった場合: 解体せず現況で売る道を先に当たる。滅失登記そのものが発生しない
建物滅失登記でよくある質問
💡 この章の要点: 期限は取り壊しの日から1か月、申請は名義人か相続人の1人、添付は業者の証明書、費用は自分でやれば登記事項証明書の手数料程度、頼むなら土地家屋調査士。未登記の建物は法務局ではなく市役所です。
- 建物滅失登記の期限はいつまでですか?
A. 建物が滅失した日から1か月以内です(不動産登記法57条)。
- 起点: 取り壊しの場合は、解体業者の証明書に書かれた取壊しの日
- 怠ったとき: 正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象(同164条)
- 期限を過ぎてしまいました。申請できますか?
A. 期限を過ぎても、建物が登記簿に残っている限り申請の義務はなくなりません(不動産登記法57条)。気づいた時点で早めに出してください。遅れた事情がある場合の扱いは、管轄の法務局に確認するのが確実です。
- 必要書類: 期限内と同じ
- 長く放置した建物: 業者の証明書が見つからないなら、管轄の法務局に事前相談
- 自分で申請するといくらかかりますか?
A. 確かめられた一次情報の範囲では、次の2つです。
- 登記事項証明書の手数料: 書面600円、オンライン請求で郵送520円、窓口交付490円(法務省)
- 郵送する場合: 書留の郵便料と返信用の郵券
それ以外に法務局へ納める費用があるかどうかは、申請の前に管轄の法務局に確かめてください。
- 土地家屋調査士に頼むといくらかかりますか?
A. 日本土地家屋調査士会連合会の2025年度アンケートでは、建物滅失登記の全国平均が52,132円(税抜)、中央値が50,000円です(報酬ガイド)。
- 前提: 木造2階建の居宅と物置で、業者の証明書が揃っている
- 増える場合: 証明書が取れない、相続関係が複雑なら見積もりで確かめる
- 名義が亡くなった親のままですが、相続登記を先にしないとだめですか?
A. 先にしなくてもかまいません。所有者が死亡している場合は相続人の1人から滅失登記を申請できます(長崎地方法務局)。
- 添えるもの: 死亡と相続関係が分かる戸籍、登記簿上の住所と本籍をつなぐ戸籍の附票、申請人の住民票など
- 残る義務: 土地の相続登記は3年以内の別の義務(相続登記の義務化)
- 解体業者が証明書を出してくれません。どうすればよいですか?
A. 契約時に発行を約束していれば、まず業者に求めます。
- 廃業などで取れない場合: 代わりの書面は法務局の公開資料で確かめられなかったので、管轄の法務局への事前相談を手順としています
- 代理: 手続きは土地家屋調査士に頼めます
- 未登記の物置や車庫も滅失登記が要りますか?
A. 登記されていない建物は滅失登記の申請ができません(長崎地方法務局)。
- 代わりの手続き: 市区町村の資産税担当へ家屋滅失届(千葉市、鹿児島市、秋田市などが案内)
- 登記の有無: 登記事項証明書で分かる
- 滅失登記をすると固定資産税はどうなりますか?
A. 登記された建物は、滅失登記が完了すると法務局から市役所へ通知され、市役所での申請は不要です(鹿児島市)。
- 課税の基準日: 1月1日の状況で決まるので、年の途中で取り壊してもその年度分の家屋の税は納める(千葉市、秋田市)
- 土地の税: 更地になると住宅用地特例が外れる。仕組みは空き家の固定資産税
動くなら早いほうが選択肢が多い
建物滅失登記は「取り壊しから1か月」、土地の相続登記は「取得を知った日から3年」と、期限のある手続きが解体のあとに重なります。解体すると決める前でも、いま無料査定を取っておくだけで、解体費を先に払って更地で売るか、建物を残して現況で渡すかを数字で比べられます。
まとめ|建物滅失登記は、証明書を受け取った月のうちに1枚で済ませる
💡 この章の要点: 申請は名義人か相続人の1人、期限は1か月、添付は業者の建物滅失証明書、会社法人等番号を書けば書類が2つ減る。名義が亡父のままでも相続登記を待たずに出せる。証明書が取れないときは法務局に事前相談、頼むなら土地家屋調査士。解体しない道では、この手続き自体が売主から外れる。
冒頭の、業者から渡された一枚の証明書に戻ります。あの一枚と登記事項証明書があれば、申請書は法務局の様式1枚で書けます。注1から注6は、どの書類のどの欄を写すかの指示で、読み替えれば表1つに収まりました。
- 誰が、いつまでに: 所有権の登記名義人(または表題部所有者)が、滅失の日から1か月以内に。怠ると10万円以下の過料の対象
- 自分でやる手順: 登記事項証明書を取る、業者から証明書と会社法人等番号を受け取る、様式を1枚書く、窓口か郵送かオンラインで出す、完了証を受け取る
- 名義人が亡くなっていたら: 相続人の1人から申請できる。戸籍と附票と住民票が加わる。土地の相続登記は3年の別の義務
- 証明書が取れないなら: 管轄の法務局に事前相談。職権の滅失登記は災害時の特例
- 頼むなら: 表示に関する登記の代理は土地家屋調査士。2025年度アンケートの全国平均は52,132円(税抜)
- 解体しないなら: 現況で売れば、解体も滅失登記も買主側に移る
残る問いは、解体の見積もりを取る前に現況の買取価格を聞くかどうかだけです。聞いておけば、この記事の手順をやるかやらないかを、数字で決められます。
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解体するかどうか決める前でも大丈夫です。建物の状態を伝えるだけで、建物が建ったままの買取ができるかと概算金額がわかります。査定・相談はすべて無料で、しつこい営業はありません。
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